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寒いときにはPUENTE(プエンテ)を ~アルパカニット100%の自然素材ブランド~

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三沢健直 松本市
day
2011-03-05
 

 PUENTE(プエンテ)は、ボリビアやペルー高地に住むアルパカの毛を、先住民の女性達が紡ぎ、編んだ服を、作り手たちから直接買い取って日本で販売する、「本物」の自然素材ブランドだ。私のPUENTEのマフラーは、細いアルパカの糸だけで細かく織られている、まったく風を通さず、暖かい空気で首を包んでくれる。凍て付く北京の冬の夜に、いつも薄茶色のPUENTEのマフラーを首に巻きつけて出かけたものだ。

ペルー、プーノ県、ハトゥカチ村の放牧の様子。標高4500Mぐらい


 PUENTEは、大学を卒業後、アルバイトをしながらNGOでボランティアをしていた落合裕梨さんが2005年に、たった1人で始めたブランドだ。当初より「自然素材」と「手作り」にこだわって、アルパカ100%のニット製品を、現地の女性達と一緒に作り続けて来た。

 設立してから5年しか経っていないが、今年は大手のファッションブランドとの取引もあり、順調に成長している。今や、ボリビアとペルーの約200人の“つくり手”が、落合さんの仕事によって半年間暮らす程度の収入を得ている。一年ぶりに松本の商品展示会で会った落合さんは、相変わらず満面の笑顔の下に、自信と落ち着きが見える気がした。

ステキな田舎暮らし

 PUENTEのアルパカニットを作るつくり手は、ペルーではプーノ県のアルテ・アイマラというグループ。チチカカ湖周辺の高地(標高4000Mほど)や、さらに高地(4500Mくらいまで)に暮らす。
 4500Mほどになると、野菜もジャガイモも育たないため、アルパカを放牧しその肉や毛を町に持っていって、市場で売ったり、農作物などと交換したりして生活しているという。ペルーではアルパカの毛を手紡ぎし、それを手編みもしくは手織りしている。

ペルー、プーノ県、アルテアイマラのオフィス前で、糸を紡ぐイルダさん。


 ボリビアでは、ラパス県ラパス市やエルアルト市に暮らすアイマラ語を話す先住民(スペイン語も話す)の人々に編んでもらっている。

 ラパス市の斜面には、かつて森林があったが、燃料にするために伐採し尽くしてしまい、へばりつくように家が建っている。雨季には、土砂崩れなどの危険がある地域だ。そこに、地方から移り住んできた人たちが多く暮らす。
 ボリビアのつくり手は、糸はアルパカの機械紡ぎで、それを手編み、もしくは手織りしている。

 建築学科の学生だった落合さんは、卒業後の2002年、“識字教育を行う学び舎づくり”を行うNGOのボランティアとして初めてボリビアを訪れた。その後も、2003年に10ヶ月間、現地駐在員としてボリビアに滞在し、公民館建設に関わった。そこで、「ステキな田舎暮らし」に出会ってしまったのだ。

 貨幣経済から少し外れたところで、自分たちの服や食べ物を自分の手で作る暮らし、音楽と踊りに溢れ、生き生きとした先住民たちの暮らし。女性たちがアワヨと呼ばれる布を織り、男性たちが衣装に色鮮やかな刺繍を施す。

ボリビア、ラパスのつくり手たち


「援助」から「フェアトレード」へ

 NGOの駐在員として現地にいる間、彼女を悩ませたのは、「援助」ということだった。ボリビアの先住民の暮す地域には、国内や欧米から、多くのNGOが活動している。NGOによる「援助」は、本当に役に立っているのだろうか?先住民が援助されるのを待つだけになっていないか。彼女の目には、「援助」が「依存」を生み出しているように見えた。

 「出会ったボリビアの人々との今後の付き合い方は援助ではなく対等な関係でいきたい。」その思いの中で、先住民の女性達の手が生み出す編み物や織物を日本で販売することはできないか、と思いついた。品物を通じて彼らの「ステキな暮らし」を日本に紹介したい。
 そう思って、フェアトレードの第3世界ショップや、ぐらするーつ、ネパリバザーロを訪ねて相談した。途上国の人々に直接手仕事をオーダーして手工芸品を買い取り、日本の消費者に売ることに関しては、フェアトレード団体は様々な経験を持っている。

 落合さんの想いを聞いたフェアトレード団体が、彼女がプロデュースする品物を買い取ってくれることになった。彼女は、自らの自立もかけた仕事として、ボリビアの女性たちの手仕事に向き合うことを決めた。2005年、ボリビアの生産者グループに初めて発注した手袋や帽子やポンチョなど数十万円程度の品物が、海を越えた。

 途上国からの直接仕入れには、問題が山積だ。一つ一つの品のサイズが違う、色が違う。草木のかけらが混じる、納期が間に合わない。

 人の体のサイズは皆違う。色んなサイズの品を作り、自分のサイズに合ったものを使えば良い、そう思っている人たちに、同サイズのものを大量に作る意味は分らない。しかし、買い続けることで、信頼関係が生まれ、細かいオーダーにも、少しずつ応えてくれるようになる。今でも問題は多いが、落合さんは、あまり苦にならないようだ。

ペルー、プーノ県にてアルテアイマラのオフィスで、納品をしているつくり手たち


 しかし落合さんは、自分では「フェアトレード」という言葉を使わない。「フェアって何だろう?と考えれば考えるほど分らない。誰がフェアと決められるのか。“フェア”の物差しは先進国の物差しではないか?」と落合さんは言う。

 本物の自然素材の品物を買ったお客さんが、「暖かくて気持ちよくて幸せになれば、それで良い」と言う。「作り手と買い手との繋がりは大事にしたい。買ってくれた人に“作り手”たちのことを伝えたい。でも、そのことを“フェア”と名づける必要があるだろうか?フェアトレードという枕詞がつくことで、「買うことで自立を支える」という「援助」の気持ちが買い手側にあるならば、使わない方が潔い。」と彼女は思った。

プロデューサーとしての作家性

 販路は、最初はフェアトレードショップが多かった。やがて、「自然素材」と「手仕事」にこだわるPUENTEの品物は、「本物」にこだわるセレクトショップのオーナーの目に留まるようになる。

 2008年には、新宿区四谷の廃校で行われた「世界のつくり手たち展」を開催した。この展示会を一緒に企画したのは、カンボジアのクロマーという万能布をアレンジして販売する「クロマニヨン」、タイやベトナムの麻・コットンなどの天然素材でできた衣服を販売する「Og」、カンボジアやラオスのシルク・コットンの布や衣服を販売する「ポンナレット」その他、途上国で自然素材を使った手作りの品物をプロデュースするブランドだった。

 この頃から、ギャラリーでの展示会が増える。ギャラリーでは、それまで作家性の高い作品を展示するのが普通だった。しかし、PUENTEやその他のブランドのように、個人がプロデュースするブランドの場合にも、プロデュースするその人の想いや「人となり」、デザインセンス、生産者との信頼関係、それらが伝統的な手工芸技術と相俟って創り出される優れた手工芸品、それらすべてを含めて作家性を認められる傾向が見えてきた。上で書いた「本物」というのは、品物だけでなく、その作家性も含んでいるのだ。

ペルー、プーノ県、標高4300Mほどのチュア村のルシアさん宅にて 夜、ロウソクのあかりで糸を紡いでいます。


 この秋もPUENTEは、ギャラリーfu do ki、ギャラリー招山などで展示会を開催している。たった一人でボリビア・ペルーの高地から手仕事を持ち帰る落合さんの単独性とオリジナリティが、一人の作家として認められているわけだ。

 2010年現在、PUENTEの卸先は約40店舗あるが、そのうちフェアトレードショップは10店舗程度。残りは自然素材の良品を置くセレクトショップになっている。若者に人気のあるアーバンリサーチが企画するグリーンショップの「かぐれ」にも、置かれている。

新しい挑戦と今後のこと

 上述のように、今年は、大手のファッションブランドにオリジナル品物を卸すという挑戦があった。これまでは許された多少のサイズ違いや色違いも許されない。納期の遅れにも厳しい。

 今回初めての取引だったが、鉄片探知機に反応したということで返品があった。ハンディタイプの探知機で調べると、一箇所反応したが、目で見ても分らない。財団法人紡績検査協会に検査を依頼し、マイクロスコープで40分の1ミリの黒い微小の粒が見つかった。水道管の錆が、洗浄の際に付着したのではないか、という報告を伝えて、ようやく引き取って貰えたという。

 新しいチャレンジで勉強になった。しかし、このペースで仕事を増やしていくことに、疑問を感じ始めている。落合さんは今、仕事を増やすよりも、畑を借りて自給自足的な暮らしをしながらPUENTEを続けていくことを考え始めているそうだ。
 それは、ペルーのつくり手たちの多くが農村地帯に住み、自分が食べるものを自分の土地で育てたり(4000M辺りに住むつくり手たち)、アルパカを放牧して、編物や織物で現金収入を得たりする暮らしを見るうちに、自分もそうありたいと思ったからだという。すでに、畑のついた家の情報も探し始めている。

 最近嬉しかったのは、生産者グループの取りまとめ役のフスティナさんが、落合さんの励ましに応じて会社を設立し、NGOへの依存から自立しようとしていることだ。今やっと、落合さんの蒔いた種が芽を出しつつある。

ペルー、アルテアイマラのつくり手たちと、遠足に行った日。 橋(PUENTE)の上で集合写真を撮った。一番左が落合さん。


 落合さんは、シンプルに「寒いからPUENTE(プエンテ)を身につけようと言われたい」と言う。アルパカの保温性は抜群。そのアルパカを高級衣料としてではなく、日常着として、体を暖める道具として使ってもらいたいと。

 関心を持った読者には、展示会のときに落合さんが開催する“お話会”に参加することをお勧めする。プロジェクターで現地の写真を見ながら、アットホームな感じで質問に答えてくれる。自分の買う服が、どこで、誰によって、どのように作られ、どのように輸入されて、自分の目の前にあるのか、詳しく知ることができる。
 そして、悩んでいる若い人たちに、落合さんの生き方を、ぜひ知って欲しいと思うのだ。


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