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「朝鮮学校入学おめでとう応援隊」に行ってみた

leader from from
三沢健直 松本市
day
2011-04-09
 

 朝鮮初級学校(小学校)の入学式に参加して、入学する子供たちに「おめでとう」と言う。「それだけ」と言ってしまえば、まさにそれだけの活動があることを知り、早速参加してみた。

 「入学おめでとう応援隊」は2003年、神奈川県で多文化教育に関わっていた木下理仁さん(かながわ開発教育センター)他7名が発起人になって始めたものだ。
 当時、北朝鮮による拉致事件が明らかになり、朝鮮学校に対する脅迫や子供たちに対する嫌がらせが頻発していた。確かに拉致は許しがたいが、子供たちには関係ない。入学式という晴れ晴れしい日に、日本で生まれ、日本で育つ子供たちを、地域の大人たち皆で祝福してあげたい。そう思ったのがきっかけだという。

 朝鮮学校については、無償化の議論が始まって以来、真偽の定かでない話が飛び交っている。しかし筆者はこれまで朝鮮学校に行ったことがない。正直に言うと、場所も知らなかった。これは、自分の目で見る良い機会だ。入学式に行って子供たちに「おめでとう」と言うだけ、という気楽さから、今月3日の日曜日、横浜朝鮮初級学校の入学式に参加することにした。

入学式の様子

 参加してみると、予想していた以上に楽しく、なんとも気持ちの良い活動だった。この清清しさは一体どこから来るのだろう?と考えると、一つには活動のシンプルさが要因だろう。朝、横浜駅前に集合して、互いに挨拶をする。参加者は16人。川崎や町田など4箇所で67人。初参加の人は毎年3分の1くらい。
 参加者は様々だが、年配の方もいればYMCAの若い学生さんもいる。キリスト教には「普遍」という観念があるために、良い意味で民族に囚われないところがあるのだろう。一市民です、という人もいた。

 歩いて学校に行く。学校で「入学おめでとう」の幟(のぼり)を組み立てて、式場の前で子供たちを待つ。やってきた子供たちに、「入学おめでとう」と言う。その後、式場の後ろの方に座って入学式を見学する。

今年の入学生は9人だった。

応援隊の奥は在校生が両側に並んで迎える

正面に新入生が並ぶ。


 式はハングルと日本語の両方で進む。子供たちの中には幼稚園は日本の学校に通っていた子もいるので、日本語でないと分らないのだ。

 正面に入学する子供たちが並ぶ。日本の入学式では、正面に日の丸や校旗が掲げられ、壇上で偉い人が演説するのが普通だが、ここでは国旗は見当たらない。国旗ではなく子供たちが主人公という感じだ。校長先生他の挨拶は、壇上ではなく脇のほうで行われる。横浜では式の冒頭で国歌が流れるが、町田の学校では流れなかったそうだ。式の途中で、子供たちの兄弟らしき子が走り回ったり、なんともカジュアルな式なのだ。

 在校生たちのテンションが上がったのは担任の先生の発表だ。「何組の先生は誰それ」というアナウンスがされるたびに、歓声やら悲鳴やらが入り混じった子供たちの楽しそうな声があがる。まったく厳粛でないのだった。

お茶を飲む

 式が終ると、「おめでとう応援隊」はとりあえず解散で、帰る人は帰る。しかし理事の尹日赫(ユン・イルヒョク)先生がコーヒーをご馳走してくれるということで、ほとんどの人が残ってお話をした。尹先生は、気さくに色んな話をしてくださった。応援隊の参加者からも興味深い話が聞けた。印象に残ったのは、都立高校を退職された先生の言葉だった。

 「都立高校では、かつて卒業する生徒達が趣向を凝らして思い思いの卒業式を演出していた。それが、石原知事になってから変わってしまった。今日の式を見て、自由だったころの都立高校の卒業式を思い出して懐かしかった。」

 私たちの持つイメージとは正反対ではないか。都立高校が北朝鮮的で、朝鮮学校が自由なのだ。しかし木下さんによると、朝鮮学校の入学式も、以前は厳格な感じだったとのこと。それが年々カジュアルな形に変わってきた。やはり外部から来る日本人の目を意識して、そうなってきたようだ。無償化の議論も影響しているのかもしれない。

 入学式を見ただけで朝鮮学校のすべてが分るわけではないし、すべての教室を開けて見たわけではない。しかし少なくとも言われているような金正日の肖像画は見かけなかった。後で木下さんに聞くと、確かに以前は教室の正面に金日成と金正日親子の肖像画が飾られていたようだが、今は「子供たちと遊ぶ金正日主席」の絵になって、教室の横や後などに移動したらしい。しかも2003年の時点で既に金親子の肖像画はなく、教室の正面の壁に日焼けせずに残った白い四角が二つあったそうだ。

補助金の件

 今回の東日本大震災では、東北地方の朝鮮学校も被災した。福島の学校には近隣の約30人の住民が避難した。半数は日本人だ。仙台の学校には寄宿舎があって米の備蓄があったことから、おにぎりを数百個作って近隣に配布したそうだ。もちろん国籍問わずに。

 ところが、宮城県の村井嘉浩知事は、この4月から朝鮮学校への補助金を中止してしまった。「村井知事は、朝鮮学校を自分の目で見ようとしない」と、尹先生は言う。神奈川県知事だった松沢成文氏も、当初は補助金の廃止を主張していた。しかし朝鮮学校側の求めに応じて何度か学校を訪問し、自分の目で見て確かめた上で、補助金の交付を決定したという。

 「私たちは常にオープンだ」と尹先生は言う。授業参観もいつでも可能とのこと。そうは言っても、いきなり授業参観はハードルが高い。やはり、応援隊は絶妙なハードルの低さなのだ。

 「入学おめでとう応援隊」は、あくまで子供たちに「おめでとう」と言うだけの活動で、学費無償化などの支援活動はしていない。それは、関心を持った人が各自やれば良い。応援隊では、年に一回、この日にだけ会う、という人も少なくない。自ら求めなければ連絡も来ない。このシンプルさ、気楽さが良い。

 「この子たちは将来、日本と朝鮮を結ぶ架け橋になる子供たちです。この子たちは、自分の入学式に何人もの日本人が来て、おめでとうと言ってくれたことを、決して忘れないでしょう。」

 尹先生のこの言葉を聞いて、私も「今日は良いことをした」という気持ちになり、子供たちの笑顔を眺め、嬉しそうな父母の皆さんと喜びを共有し、大したこともしてないのに感謝され、知らなかった世界も垣間見れ、したがって清清しい気持ちで帰宅したのだった。そして、いずれ自分の地元でも、この活動をやってみたいと思ったのだった。


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