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インド有機農業レポート Vol.2

見失われた有機農家たち 

leader from from
前田智佐子 オランダ
day
2011-04-19
 

見失われた有機農家たち 

 南インドのIT都市、バンガロール郊外にある有機農家を訪れた。中心街からバスで1時間。すぐ近くを走る高架道路の交通渋滞を他所に、自転車で森を抜けると、そこには静かな農村の景色が待っていた。

 アメリカ人のジョンが経営する有機農場では、インド在来種の牛を飼っている。村のみんなは生産量の高いホルスタインに次々に変えていったが、外国人であるジョンはあえて言う。村のみんなは効率を追求するばかりで、昔持っていたはずの知恵を忘れてしまっている。と。

 彼は、失われたものを取り戻そうと、昔ながらの農業を知っている地元の農家さんから有機農業を学んでいる。

「牛の乳は、井戸水のように湧いてくる。」 

 牛の乳絞りをしながら、おばあさんはジョンに諭す。そのリズムを感じ取ることが、牛に負担をかけないやり方なのだと。

 工業化された農業システムは、生命固有のリズムを無視し、無理に搾乳する。強制的に人工授精され、生まれた子供は即座に親と離される。そして5年以内に食肉加工所へ送られる。

 この農場の牛は、もう10年以上生きているが、他の牛よりも生産性は高いという。 子牛を一緒に飼うことで親牛は特有のホルモンを出し、ミルクの出がよくなるのだそうだ。


 緑の革命から取り残された土着の農業、化学肥料や農薬を使わない農家は、organic by neglect (見失われた有機農家)と呼ばれる (Altieri, 2002)。neglectされた手の感覚、 近代化から取り残された土着の有機農業がひっそりと続けられている。

 ところが、これは法律上「有機農業」であると認められない。有機認証を受けていないからだ。有機認証には高額の費用がかかる。認証取得に投資できるのは一部の大規模農家である。

オーガニックはサステイナブルか?

 インドの有機農業資材店を訪問した時のことであった。

 「インドで100%オーガニックは無理だ。」と、店のオーナー。ヨーロッパに比べ害虫被害が多く、農薬を使わなければ防げない。有機農業で認証されている防虫剤もあるが、有機資材を購入するには逆にコストがかかり、それに見合ったプレミアム価格で販売できなければ経営として成り立たない、と。

 「しかし今後、オーガニック需要が高まり、有機農作物の販売価格の上昇が見込めれば、オーガニック市場は有望だ。有機農業はいいビジネスになる。」

 店に並んでいた有機資材は高額だった。


 高く売れるオーガニックを利用しようとしている農家の中には、有機資材を入れればオーガニックだと思っている人がいる。 有機認証を受け、商用としてオーガニック商品を大量生産すれば、それは 慣行農法と何ら変わりないものになってしまう。これを、conventionalisation(オーガニックの慣行化)と呼ばれている。

 近年、日本でもアグリビジネスとして有機農業が注目されているが、堆肥を入れすぎれば環境汚染につながる。ヨーロッパでは入れられる堆肥の量が法律で制限されているが、日本にはこのような規制はない。つまり、環境汚染をしている農家でも有機認証を取得していれば環境にやさしいように見えるのだ。

 「有機農業」、「オーガニック」という言葉に、健康的で環境に優しいというイメージが独り歩きしている気がする。単に農薬や化学肥料を使わなければ有機農業というのではない。IFOAM(国際有機農業運動連盟)の定義によると、有機農業は次の原則に基づく:土・植物・人の健康、生命の多様性の尊重、公正な資源の分配、次世代の幸福への配慮。つまり、この定義によると、有機資材を大量に入れ、一つの作物を集中的に作っている商業的農業は有機農業ではない。オーガニックは、「無農薬、無化学肥料」を超える概念なのだ。

 冒頭で土着の有機農業をorganic by neglectと呼ばれていると紹介したが、慣行化(conventionalisation)された有機農業こそ、ある意味で、organic by neglect(怠惰な有機農業、or見失った有機農業?)なのではないかと思う。堆肥や有機資材を外部からの投入に依存するのではなく、本来自然が持つ機能を尊重し、農場の中で、あるいは地域の中で資源が循環する環境こそが、持続可能な食物生産につながるのではないだろうか。

 どんな農業スタイルなのかを把握し、応援したいと思った顔の見える農家さんから直接買うなど、消費者は一時の有機農業のブームにのるのではなく、その有機農家は本当にサステイナブルであるかどうか、自己判断が問われるだろう。

参考文献
Altieri M. (2002). Non-certified organic agriculture in developing countries. In: El-Hage S.N. and Hattam C. (eds). Organic agriculture, environment and food security. Food and Agriculture Organization of the United Nations. Rome.
Darnhofer I., Lindenthal T., Bartel-Kratochvil R., and Zollitsch W. (2010). Conventionalisation of organic farming practices: from structural criteria towards an assessment based on organic principles. A review. Agronomy for Sustainable Development 30:67-81.


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