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自立的な発展を目指すサラワクの先住民コミュニティ 2/2回

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伴昌彦 東京都
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2011-05-07
 

 前回に続き、マレーシア、ボルネオ島のサラワク州で、過去20年以上に渡って森林伐採、プランテーション開発への抵抗の最前線にあった先住民の村「ウマ・バワン」の訪問した伴昌彦の報告です。

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●クルアンの日常

 クルアンの時間はとてもゆっくりと流れている。明け方5時頃になると鶏が鳴き始めるが、人々が起き出すのは6時頃。ジョキン氏は「本当は狩りに一番いい時間は午前3時から4時頃なんだ。でもその時間は皆眠いから寝てるんだよ」と笑う。

 起きた後は川へ水浴に行ったり、洗濯をしたり、男は猟や漁に行ったり、女は食事の支度をしたり、朝食を食べたりして、8時頃になるとそれぞれの畑へ出かけて行く。ひと仕事終えてロングハウスに戻ると、昼まで時間があれば、また水浴をしたり、お茶を飲んだりしている。

 コミュニティスペースとしてなくてはならないのが廊下だ。空いた時間が出来ると住民は大抵、廊下に座り込んで談笑したり、トランプをしたり、ビンロウを咬んだりしている。誰かが廊下で食事をしていると、ロングハウス中の人々が自分の家のおかずとご飯を持ち寄り、いつの間にやら大宴会ということもよくある。

ロングハウスでの食事風景


 食事のメニューは大抵はご飯と、魚や肉、野菜、山菜、タニシなどを料理したおかず。調味料や油、たまに出る即席麺などを除き、殆どの食材を地産地消している。肉はイノシシが主だが、時にヘビ、サル、トカゲなど、その日獲れた動物の肉も出た。

 サルはニホンザルと近縁の種で、果実を獲りに来た所を撃ったそうだ。村人の一人は「多分撃っちゃいけない保護動物だと思うんだけど、果物を食べちゃうから仕方ないんだ」と話し、言外に森を破壊して野生動物を減少させながら、保護の名目で狩猟を禁じようとする政府への反発を匂わせていた。

 昼食後は、畑へ出かける人がいたり、脱穀をしたり、男は薪割りや大工仕事、女は帽子やビーズ細工を作ったりと仕事が再開されるが、仕事と休憩の時間はそれほどはっきり分かれておらず、遊んだり働いたりしている内に夕方になる。彼らは水浴好きで、夕方にはまた水浴だ。ウマ・バワンでもクルアンでも、川で石鹸を使って体を洗ったり、歯を磨いたり、洗濯したりしている。

 うす暗くなる頃には夕食となる。メニューは昼と大体同じだが、少しおかずの数が多く、豪華になる。食欲旺盛な人々が多く、平皿に山盛りにした御飯をお代わりして食べていた。

 暗くなると、また猟に出かける人もいる。筆者も一度同行させてもらったが、その夜は動物の気配すらなかった。昔は獲物をコミュニティに持ち帰って分け合っていたが、以前はたくさんいたイノシシも獲れにくくなっているので、最近は狩った人にお金を払うようになってきたそうだ。

 現在では猟には銃を使っており、人によっては犬を使う。ロングハウスのテラスやその周りには、いつも犬達が数頭うろついているが、優秀な猟犬は少ない。ジョキン氏は、イノシシが減って猟をする機会が減ったためではないかと言っていた。

 ロングハウスにはガソリン燃料の発電機があるが、時々ガソリンが切れて停電になる。そうなると次に街から人が来るまで電気は点かず、ろうそくや電池で点くランプで夜をしのぐ。

 TVはウマ・バワンでは、大抵の家にあるが、クルアンでは1家族しか持っていなかった。夜になるとよく、この家に集まってTVやDVDで映画を観ていた。しかし映画は大抵が英語で、字幕も英語。英語が分かる住民は少ないので、目的は映画を観ることよりも、皆と一緒にいることにあったのかもしれない。TVを観ていない時は、トランプをしたり、誰かが街から持ってきたお酒がある時はそれを飲みながら談笑したりしつつ、夜が更けると一人、また一人と自分の部屋へ戻っていく。

●スンガイ・クルアンのオイルパーム

 ジョキン氏達が森作りに尽力する一方、UBRAの中にはオイルパームのプランテーション開発を始めたメンバーもいる。アンドリューは30代のプランテーション企業の社員。会社で働いて貯めたお金を使い、現在、父親から受け継いだ陸稲の畑の跡地で、オイルパームプランテーションの開発をしている。現在も会社の仕事は続けているが、4人の労働者を雇って樹の伐採や土地の造成を始めた。

 スンガイ・クルアンのメンバーも何人か、このプランテーションに出資しているそうだ。ジョキン氏はこの試みをコミュニティの経済的自立のための試みのひとつとして評価している。地元の先住民を雇用するなら分かりやすいのだが、ここの労働者達もやはりインドネシア人という所がややこしい。
 しかし、マルディ付近のイバンのコミュニティで見た先住民と労働者との対立関係はここでは見られなかった。労働者との間に人間的な交流もあるようで、彼らがロングハウスに来て、カヤンの人達と一緒にコーヒーを飲み、ギターを弾いていたこともある。

 プランテーション開発を外から見れば、同じUBRAメンバーが、森を育てる一方で森を壊しているようにも見えるが、ジョク氏は「彼らは子供を学校に行かせなければいけないし、お金が必要なんだ。他に選択肢はない。それに企業のプランテーションよりずっと規模が小さいし、元々森ではなくて畑だった場所だ」と話す。アンドリューによれば、予定している開発面積は30~40ha、最大でも50ha程度というから、最低でも3000ha程度になる企業のプランテーションとは確かに比較にならない。

 プランテーションを作っているのはアンドリューだけだが、オイルパーム自体は、何人かの村人が植えていた。ジョク氏も3~4haの面積の自分の農場に、現在までに140本のオイルパームの苗を植え付けている。ジョク氏の農園にはメランティやマンゴーなども同時に植えられており、アグロフォレストリーでオイルパームを育てることを計画している。しかし、搾油工場を作るには大資本が必要なので自分達では搾油出来ず、いずれにしても企業に依存することになる。

 オイルパーム以外の換金作物候補として、ジョク氏の畑では最近バイオディーゼルの原料として知られるジェトロファも育てている。ジェトロファも将来の収入源一つと見込んで、何人かのUBRAメンバーが自分の畑で栽培を始めた。

●空洞化する先住民コミュニティの未来

 UBRAの人々は先祖から受け継いだ自分たちの森や土地が守られることと同時に発展を望んでいる。

 ウマ・バワンは過疎の進んだ現在でも100人近い人々が生活しており、家電製品は多くの家にあるが、クルアン同様、電気が来ておらず、自家発電装置で電気を得ている。病院も大分距離の離れたロング・ラマまで行かなければならない。政府はもう何十年も道路を作ると約束しながら、その約束が現在もまだ守られておらず、周辺のコミュニティの人々は道路を切望している。

 「特に雨が降った後には道はひどい状態になる。せっかく果物を作ったって売りに行くまでに腐ってしまう。それに今は企業の伐採道路に頼らざるを得ない状況だ。政府がきちんと道を作ってくれれば僕らは企業の開発を拒否することが出来るんだ」とジョキン氏。

 サラワクの木材を切り売りしたお金の多くが、社会資本の整備ではなく、政治家やその親族の懐を潤すことに費やされてきた。

 必要なインフラが未整備の一方で、地域に悪影響を及ぼすことが懸念される開発計画もある。現在、バラム川の上流にダム建設が予定されている。政府はこれに伴って道路が作られ、電気が来ると説明しているため、地域の多くの人々は、この計画を歓迎している。しかし、これによって多くのコミュニティが移転を余儀なくされること、バラム川の水量が減少することを懸念し、反対している人もいる。

 先住民活動家の一人は「政府は既に十分な収入を木材の伐採で得た筈だよ。でも道路は出来たかい?電気は来たかい?今回だって、きっとその約束は果たされず、土地だけが奪われてしまうだろう。電気がなくても生きてはいけるけど、土地がなくなれば生きていけない。それにバラム川は今、道路としての役割も担っている。その水が減ってしまえば道すらなくなってしまうよ」と話していた。

 帰りにジョク氏の4WDでスンガイ・クルアンからマルディまで走ったが、都市部周辺を除き、未舗装の大穴や池のような巨大な水溜りだらけの悪路だ。7時間のドライブで、ジョク氏はマルディにつく頃には疲労しきっていた。仮に道路整備がされれば、より一層の都市への人口流出や、文化の画一化を招くことも考えられるが、それは必要最低限の道路が整備された後で危惧すべき問題なのかもしれない。

 数々の先進的な取り組みを行ってきたUBRAだが、その努力も未だに目覚しい経済的収益とは結びついておらず、多くのプロジェクトが失敗に終わっている。一方で森林資源の減少と生活の近代化に伴い、必要な現金はますます増えてきた。こうした状況を反映し、クルアンでも、ウマ・バワン以上に住民の数は減っている。クルアンの大きなロングハウスには約20戸の部屋があるが、日常的にそこに住んでいるのは数世帯のみだ。

 学校がないため、居住者は子供のいない家族やリタイアした高齢者に限られる。多くのUBRAメンバーが、普段はウマ・バワンや都市に住んでいるので、平日は閑散としている。以前は夜、自然に人が集まって楽器の演奏や踊りが始まることも多かったというが、近年ではそれも少なくなった。

 都市生活をしているUBRAメンバーの中には、石油会社やプランテーションの会社に勤めている裕福なメンバーも存在し、彼らはUBRAの活動に金銭的な支援をしている。週末には都市に居住している家族連れの3~40代のメンバーが車でクルアンを訪れ、ロングハウスは活気付く。しかし生まれた時から都市で暮らすようになった先住民の子供達は大人になって家族が出来た時、果たして森のロングハウスに戻ってくるのだろうか。

 先住民コミュニティの空洞化の背景には、様々な要素が絡み合っており、単純に森林破壊が原因とは言えない。先住慣習地の権利の侵害によって生じた困難に加え、都市と地域との経済格差や若い世代の都市への憧れ等、日本と同様の構造も見受けられる。

 長年に渡って企業に抵抗し、世界から注目を受けてきたUBRAの人々。その彼らの村ですら、経済的な困難を抱え、多くの人々が都会に押し出されていく。森と共存してきたサラワク先住民の文化はこのまま消えてゆくのだろうか。

 聞き飽きた質問だとは思ったが、彼らの苦境に対して日本人に何が出来るだろうとジョク氏に聞いてみると、こんな話をしてくれた。「地域の先住民が必要としているのは収入なんだ。今イバン、カヤン、プナンの先住民のネットワークを作っていて、経済的自立の手段のひとつとして先住民によるエコツアーを考えている。日本人にも是非来てもらいたいと思っているよ」

 ジョク氏らは今日も、先住民が森と共存しながら発展してゆく道を探し続けている。


自立的な発展を目指すサラワクの先住民コミュニティ 1/2回

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