reports

サステナビリティ

back
prev_btnnext_btn
title

インドのエネルギー事情

leader from from
前田智佐子 オランダ
day
2011-05-26
 

インドの水力発電

 ガンジス川の源流を辿り、ヒマラヤ山脈の麓にある小さな村を訪ねた。Dehraduneからバスで8時間。崖にこべりついたようにうねる道を跳ねながら進む。窓の外から地面は見えない。まるで銀河鉄道にでも乗っているような心地がした。

Devprayang行きの車窓の風景


 Uttakharand州Devprayang区はガンジス川上流に位置し、ヒマラヤで生まれたいくつもの小さな川が合流しガンジス川へと注ぐ。山脈の斜面にひっそりと佇むTilwara村では、農業が生活の基盤となっており、1家族あたり2~3acreほどの土地で小麦やコメを育てている。標高差が異なる村では採れる野菜も異なる。村同士で野菜の交換を行い、ほぼ自給自足できている。

 ところが、この地にダムができてから村の生活が脅かされているという。

 2006年、Tehriダムは水力発電のためdevprayang川とbagirathi川が交わりガンジス川に合流する地点に建設された。ダム建設のために7万の住民が十分な補償のないまま土砂崩れの危険のある高地へと追いやられた。元の場所に住めなくなった動物たちは村に姿を現わすようになり、作物は大きな被害を受けている。

「ダムができてから、作物がうまく育たなくなった。90%の雨水はダムに注ぎ込み、以前は豊富に使えた農業用水が不足している。ダムは私たちの生活水を奪った。」と、Tilwara村の住人は語る。

 コンクリートや土石の流入により川は濁り、流れの淀んだダムはバクテリアやパラサイトの媒体になる。さらに、地震多発地であるこの地域では、ダムの決壊による洪水の危険が指摘されている。

濁ったダムからの放水が清流に注ぐ(写真提供:Dr. Chandra Bhatt)


 電力のほとんどは首都ニューデリーで消費される。地元の人たちは電力をほとんど消費しないつつましい生活をしている。都心デリーの生活は、小さな村の農家の生活を犠牲にして成り立っているのだ。

ダム建設により低下する川下の水位


自然の摂理を生かすAppropriate Technology

 住民の反対を押し切って建設されたTehriダムは世界第二位の発電量を誇るというが、それでも増加する電力需要に対応しきれず、インド政府は原子力発電所の増設を進めている。原子力に反対するインド人NGOスタッフは次のように言う。

 「Technologyには2種類ある。自然を生かすテクノロジー(Appropriate Technology)と自然の摂理に反するテクノロジーだ。原子力は後者である。」と。

 初めてインドを訪問したのは2010年夏。大都市バンガロールで3ヶ月過ごした。不足する電力問題に対応するため、インドでは計画停電が行われている。地区ごとに配電の時間帯が振り分けられ、日に2時間ほどしか電気が来ない時もあった。地区全体が停電するため、街灯もない路地は真っ暗で出歩くのは危険だ。
 ホームステイ先の一家では、計画停電が始まると慣れたように充電式の電気に切り替え、食卓にはろうそくを灯した。停電に備えて自家発電を行っている企業は多く、インターン先の事務所では停電時にはソーラーパネルによる自家発電に切り替えていた。

 ヒマラヤ山脈の麓の村、Ranikhetでは各家庭に1つ小さなバイオガスタンクが設置されており、2頭の牛の排せつ物で日々の電力を賄っている。牛糞を乾燥させたものをそのまま燃料として燃やして使うよりもかなり効率が良いという。
 多くの村人は家畜を飼っている。10kgの牛糞を毎日タンクに投入し、メタンガスをエネルギーとして抽出した後、残渣を肥料として畑に返す。そして畑で育った作物を牛が食べ、排せつ物をエネルギーに変換する。村の中でエネルギーが循環する仕組みが成り立っているのだ。

メタンガス抽出後の残渣は藁や枯葉とともに畑に投入される


 バイオガスタンク1つあたりのコストは約15,000ルピー(約30,000円)。インド政府がそのうちの10,000ルピーを援助し、残り5,000ルピーは村人自身が費用負担している。Ranikhetに拠点を置くNGO、GRASSRTOOTSがバイオガス設置にあたり、技術支援をしている。

 「援助(Aid)よりトレード(Trade)」をモットーとするGRASSROOTSは無償で技術援助をせず、村人からの費用負担を原則としているが、それでもうちにも設置してほしいという村人の需要は増えているという。バイオガスはエネルギー効率が良いだけでなく、労働時間も短縮できる。山から薪を運んでくる必要がなくなり、生活が楽になった、と評判を呼んでいる。

 「外部からのエネルギー供給に頼るのではなく、各個人によるエネルギーの自給を促すことがバイオガス推進の目的」。と、GRASSROOTSのスタッフは言う。

 オール電化の家庭は停電が起きれば代用が効かない。近代のテクノロジーの多くは修正が効かないものの上に成り立っている。自然は人が作ったものよりもはるかに複雑で、全てがつながっていて互いに補い合っている。自然の摂理を生かすテクノロジーは、自然に回復する機能を備えている。

 バイオガスを始め、太陽熱を利用してハーブや漢方薬を加工するソーラードライヤーやアルミホイルで太陽熱を集め料理に利用するソーラーキッチンなど、大がかりな設備を必要とせず、小さな努力でできるAppropreate Technologyが今インドで注目されている。ダムや原子力の建設に反対する前に、各家庭、企業、あるいはコミュニティー内でのエネルギーの自給を目指す努力が必要なのではないだろうか。

ソーラードライヤーを使ったカモミールティーの加工



参考文献
BIJA vol.57, 2010, Research Foundation for Science, Technology and Ecology/Navdanya, New Delhi, India
Website: GRASSROOTS(local NGO in Ranikhet) www.grassrootsindia.com


ブータンの有機農業と国民総幸福(GNH)(1)
インド有機農業レポート Vol.3
インド有機農業レポート Vol.2
緑の革命から常緑の革命へ Green Revolution to Ever-Green Revolution

このエントリーをはてなブックマークに追加





クリエイティブ・コモンズ メンバー募集 メルマガ 受託型リサーチ レアリゼブックストア サポーター募集 twitter mixi face Flickr