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自由化の進んだ国、英国のエネルギー消費者事情

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増田和子 ロンドン、イギリス
day
2011-08-17
 

 今回はエネルギーの自由化を早期に実施した英国のエネルギー事情を、一消費者の目線で書いてみる。

 英国に住むと、エネルギーを利用することは、携帯電話やインターネットのサービスを利用する感じに似ている事に気づく。住まいが決まり、さて、電気ガスの利用開始契約をしなければ、と近所の方に問合せ先を尋ねると、「うちは、××だけど、例えば、△△もあるし、○○がいいという人もいるわね。」と、いくつもの会社名を挙げられ戸惑った。

 日本であれば、東京に住むなら東京ガスに東京電気と、自動的にどこからエネルギーを購入するか決まってしまうのに、どうもこの国は違うらしいと知る。

英国のエネルギー事業民営化の歴史

 英国も他国同様、電気やガス事業などのエネルギー事業は公営であったが、サッチャー政権の下で推進された大規模な民営化により、エネルギー事業も民営化された。
 電力事業は、EU電力指令(Directive 96/92/EC)(*1) が発効される以前1990年に、EU指令よりも一層厳しい内容で自由民営化が進められ、発電・送電・配電・小売供給の各部門を分離している(イングランド・ウェールズが中心でスコットランド・北アイルランドは多少事情が違う)。消費者に最も身近な小売供給の自由化は1999年に完了している。

 一方、ガス事業の民営化は電力よりも先に実施されている。英国のガス事業は、その昔、全国で1000以上あった事業者が12の事業者に統合国営化、その後、全国をブリティッシュガス(英国ガス公社)が統括する一社体制にした。国営体制の下、全国のガスネットワークをコモンキャリア化(*2)した後、ブリティッシュガスの株を民間に放出する形で民営化(1986年のこと)、ガス事業は許可事業制の新規参入制度を導入して市場を開放した。

*1: Directive 96/92/EC of the European Parliament and of the Council of 19 December 1996 concerning common rules for the internal market in electricity.
*2: コモンキャリア化とは、ガスを利用者に配るための配管を公衆配管にしたということ。電話の公衆回線のようなもの。



英国のエネルギー事業の現在

 現在エネルギー事業は、「Utilities Act 2000」に規定されており、実際のエネルギーは大雑把に言って以下に示す4種の事業区分を経て家庭に届いている(表1参照)。

(クリックすると拡大)


 これらの事業は民営化・市場の自由化が実施されているとはいえ、エネルギーを送る基幹ネットワーク部分は、その経済効率性のためか、スコットランドの送電事業を除く全てのガス電力ネットワークがNational Grid社(*3)の独占のまま残っている(図1(1)、2(1)参照)。

*3: National Gridは、投資家が保有する世界最大の国際電気ガス企業の一つ。米国と英国で事業を展開する。



 また、基幹ネットワークから消費者へエネルギーを届けるための接続サービスも、ほぼ地域毎に1社独占状態のままである。例えば、ガスの場合、National Grid社の他3社(Scotia Gas Network(Scotland Gas Networks plc、Southern Gas Networks plc)、Northern Gas Network、Wales & West Utilities)が地域を分担してサービスを提供している(図1(2)参照)。

図1:地域別ガス事業 出典: National Grid, Transmission,Distribution,


 電力の場合も、14に区分された配電地域を、配電企業(Distribution Network Operator: DNO)1社につき1〜3地域程度を担し、全8社でほぼ独占的に配電サービスを提供している(図2(2)参照)。

 ただし、2001年以降、配電事業を実施する新たなカテゴリーとしてIndependent Distribution Network Operator(IDNO)がエネルギー事業規制機関(OFGEM)に認められ、配電事業に参入している。IDNOは新築家屋への接続や、新しく開発されたエリアの担当ができることになっており、価格管理等について、ほぼDNOが受ける規制と同様の規制管理下にある配電事業者である。現在その数は、fulcruminexus の2組織がある。 
 

図2:地域別電力事業 出典: National Grid, Transmission, Distribution


 これらの配電事業8社の半分は、フランス、ドイツ、米国の国外資本により支えられていた(表2参照)。エネルギーの自由化により、国外資本がエネルギー事業に参入していることがわかる。

出典:National Grid,


最も市場開放が進んだエネルギーの小売供給事業

 そして、最も市場の開放が進んでいるのが、消費者へエネルギーを直接販売する小売供給の部分である。「Utilities Act 2000」は、小売供給事業への新規参入を容易にするため、配電ライセンスと小売供給ライセンスを同じ会社に発給することを禁止し、配電ライセンス保有者に対しては、小売供給業者の依頼に応じて配電ラインを接続する義務を課している。

 また、小売供給はガスと電気を両方販売する事が可能である。家庭へのエネルギー配布と小売供給事業を合わせ持つことが禁じられたため、多くの主要エネルギー企業は、子会社を設立し小売供給事業を行っている。そのため相変わらず配電ライセンスを持つ企業のシェアは多いようだが、こうして英国のエネルギー事業の中では、小売供給事業の自由化が最も進展し、競争市場が形成された。現在私の知る限りで以下に示す20の事業者が存在し、消費者は自分に最も適した業者を自由に選ぶことができる。

表3:小売配電事業者リスト

消費者にとっては複雑な業者選び

 多くの小売供給事業者が存在する事は、多くの選択肢の中からより良いサービスを選ぶことができるため、消費者に取って良い事ではある。しかし、多くのサービスから適切なサービスを選択する事は意外に手間がかかり、消費者に新たな負担を課しているとも言える。

 しかも、エネルギーは、面倒だからといって購入しないという選択肢のない生活必需品である。そのため、「Utilities Act 2000」では、小売供給事業者に対し、料金メニューの提示を義務づける等、消費者保護の観点から規定が定められている。ただ、企業も生き残るためには儲けなければならず、目立ってお得な条件のサービスはなく、消費者は僅かな差異を比較することになる。

 うっかりすると、初期費用を安く設定しておいて、数ヶ月後から割高な料金設定に変わる契約など、消費者に分りにくい設定になっていて、安い業者に乗り換えたつもりが実際は割高になっていた、というような苦情は後を絶たない。また、日本のように検診員が正確な電気ガスの使用量を読んで料金を請求する事は非常に稀なことで、実際の利用量を上回る料金を長年にわたり支払っていたということも多々ある(請求支払方法の例:表4参照)。

 請求金額が妥当かどうかは、消費者が注意を払う必要がある。また、読むのが嫌になるような小さな文字で書かれた契約書に目を通さなければならないため、お年寄り等の社会的弱者が不利な立場になる事が多く、自由民営化の課題だと捉えられている。

 そのため、政府が運営しているDirectgovという政府サービス総合案内サイト内では、業者の変更に関する消費者の権利を説明する資料、不利な契約締結を避けるための注意事項や、関連法令、電気・ガス供給サービスに対する苦情窓口が設けられている 。

 もちろん、通常の苦情は、電気・ガス供給会社が設けているカスタマーサービスに伝えるのが普通だが、ここで解決できない場合、本サイトから電子メールあるいは手紙のいずれかで苦情を届け出て、行政の介入を待つ仕組である。


 政府はそれでも、市場の力によって適切な価格帯に落ち着く事を望んでおり、消費者に対し、契約を乗換は、電気ガス料金の節約になる可能性があると、小売供給業者の変更を推奨している。前述の政府サイトDirectgovでは、消費者の選択を助けるため、価格比較サイトが13ほど紹介されている。

・ Fuelswitch.com
・ TheEnergyShop.com
・ switchelectricandgas.com
・ beatthatquote.com
・ Confused.com
・ UKPower.co.uk
・ Energylinx
・ MoneySupermarket.com
・ energyhelpline.com
・ Unravelit
・ uSwitch.com
・ Which? Switch
・ SimplySwitch

エネルギーの小売供給事業の民営自由化の結果は?

 何割の消費者がどのくらいの頻度で業者を変更するのかは不明であるが、業者を乗換えるのは結構神経を使う。契約を終了し、別業者に移行したにも拘らず旧業者が銀行引き落としを継続していたり、希望した通りの契約内容で新規サービスが開始されているのか確認する必要があったりと、ある程度の時間を費やす覚悟がいる。

 ただ、消費者に選択肢があるということは、業者が価格を上昇させようとする際に別業者に乗換えて支出を抑えることを政府が積極的に推奨していることからも、価格の不当な上昇を押さえる効果があると想像する。一消費者としてのこれまでの経験からは、業者間の価格差はそれほど大きなものにはならず、どちらかと言えばトラブル対応の善し悪し、買い物券や飛行機会社のマイレージと交換できるポイント制度等の付加的なサービスによって業者を乗換える事の方が多いと感じている。

 実際政府の見方によれば、こうした自由競争市場原理の導入は、価格の適切なコントロールやサービスの質改善に一定の実績を挙げてきたが、一方で、公平な競争を促進しつつ消費者を保護するためにはより規制強化する必要があった。サッチャーの行った改革は小さな政府を目指したはずだが、消費者を守るため、公平な市場を維持するため、実は規制機関が増え、大きな行政になっているように見える。

 エネルギー事業の自由民営化がもたらした競争市場はその環境を整備するのも維持するのも結構大変な事らしい。市場は生き物で絶え間なく変化する。適切な市場環境を維持するためには、消費者も行政も絶え間ない対策が必要なのである。


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