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インド有機農業レポート Vol.3

インドの有機農業組織

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前田智佐子 オランダ
day
2011-08-02
 

有機農業のメリットとデメリット

 有機農業はサステイナブルか?という問いかけを前回のレポートでしたが、サステイナビリティ(持続可能性)には、ecological (環境)、economic (経済)、social (社会)の3つの領域がある(Mueller 1996)。

 環境面においては、有機農業の導入により、土壌有機物や微生物が増え、地下水や土壌汚染を防げるという研究結果も出ている。経済面では、化学肥料や農薬の購入の必要がない分コストが抑えられ、プレミアムプライスが付くというメリットもある。社会面では、農家の健康向上や社会的ネットワークの構築といったメリットがあげられる。では、何が有機農業への転換を妨げているのだろうか?

 インドの慣行農家へのインタビューによると、オーガニックは見た目が悪いので売れない、病害虫に対処できない、働き盛りの若者は出稼ぎに行っているので手間がかかる有機農業は難しい、有機資材が確保できない、という意見があった。多くの農家が口をそろえて言うのは、「mixed farming(半オーガニック)がインドに適した有機農業のカタチだ」ということであった。100%オーガニックは無理であり、必要に応じて少量の肥料や農薬を使うという。
 インドでは古くから有機農業が行われてきたが、緑の革命以降では、「多収性に焦点を当てて品種改良された作物は病害虫に弱く、農薬なしでは対処できない」、「消費者がきれいな野菜を求めるため見た目が悪い野菜が売れない」、といった問題を抱えている。

 有機農業はlabour intensive (労働集約的)であり、knowledge intensive (知識集約的)な農業である。いかに有機資源を確保するか、少量多種の製品をどう売るか、病害虫にどう対処するか、知恵が求められるのである。

有機農業のカタチ

 今回のレポートでは、そんな有機農業の抱える問題を解決すべく立ち上がったインドの2つの有機農業組織を紹介したい。

 かつてのマイソール藩国の中心地、カルナータカ州マイソールは今も王室一家が暮らしている歴史ある地。農業就業人口は全体の80%を占め、米をはじめとする穀物やさとうきび、綿花、トロピカルフルーツを主に育てている。今回訪問したのはマイソール郊外にある2つの有機農業プロジェクトだ。一つは有機農業組合。もう一方は、有機農業株式会社。1,000世帯を超える有機農家が出資して作った会社だ。

有機農業組合 Savayava Krishakara Sangha (SKS)

 136 の有機農家で構成されている有機農業組合、SKSで出荷している作物は、ウリ、かぼちゃ、インゲン、オクラなどの野菜類から黒砂糖、コットン、スパイス、穀物など多岐に渡り、主に隣のケララ州やバンガロールで取引されている。慣行農法の作物に比べ15%の付加価値が付くという。

 定期的なミーティングや日々の業務の執行を行っているのはExecutive Body と呼ばれる農家の代表から構成される組織で、理事長、理事、会計理事など8~10名のメンバーが選出される。事務所を案内してくれたのは理事長。ヨーロッパの有機認証会社、IMOの有機認証を団体として取得していると、認証を受けた証であるパッケージを見せてくれた。

オーガニック黒砂糖


組合員からの有機野菜を計量する作業員


 個々の農家が有機認証を取得するには査察費用や登録費用などのコストが、かなりの負担になる。認証は毎年更新する必要があり、年500 ユーロ(25,000 ルピー)のコストが必要となる。Internal Control System(内部管理制度)やParticipatory Guarantee System (参加型保証制度)は、グループ内で有機農産物の品質保証を共同で行うことにより、認証コストをシェアすることができるシステムだ。ICSが第三者認証を基本としているのに対し、PGSはより信頼関係に基づく内部認証を基本とし、各加盟メンバーたちがお互いの生産過程が有機認証基準を満たしていることを保証し合うのである。

インドPGS(参加型保証制度)協会ロゴ

 さらなるコスト削減のためにSKSは画期的な試みを行った。Bt Cotton(病害虫耐性を持った品種改良コットン)は、自家採取できず、1,500/kg かかる種を毎年購入する必要があった。多くの遺伝子所有権は外資企業が握っており、借金して種を購入したものの、不作により借金が返せず、農薬を飲んで自殺するという事件が後を絶たない。
 そこで、SKSは種を外部から購入せずにすむよう、種を専門に生産する農家のグループを立ち上げた。136 の農家のうち、4 つの農家は採種を専門に行うブリーダーであり、各農家が1 acre あたり800kg の種を生産し、136 の農家が生産する綿花の種を提供している。オーガニックスプレー(有機農薬)や自家採取した種の保存、共有を行うことにより、有機農業に適した技術の普及、品種の選別を農家自身が行うことが可能となった。

 さらに、SKS はオーガニック商品のフェアトレードを行っている会社と契約栽培を行うなど、卸売先を積極的に確保し、マーケティング力の弱い小規模農家を支えている。有機農業は大量生産に向かない。病害虫対策のひとつとして混作・輪作体系を取り入れる有機農業は作物の多様化を原則とし、一つの農家が出荷できる量に限界があるためだ。組合として出荷することにより、一定量を確保することができる。それでも需要は増加傾向にあり、供給が追いついていないという。

有機農業株式会社 Kabini Organic Farmer Producer Company Ltd.

 2つめの訪問先は、990の 農家自身が株主となった有機農業生産会社。この会社では、各農家が年間500ルピー(約1,000円)の出資を行い、社長、取締役員は農家から毎年選出されている。株式会社の設立を支援したインドのローカルNGO、MYRADA(マイラダ)のスタッフによると、個々人の農家が資金を集めることは難しいが、株式会社として組織することで大きな契約を取ることができ、共同所有により設備投資の経費節減につながったという。

 現在はオランダの銀行が期限付きで3,000 万ルピーの資金提供を行っているが、3 年後には独立採算へともって行かなければならない。各農家が拠出する投資額は3年で約150 万ルピー。残りは売り上げ分で経費を賄う必要がある。
 このため、執行部は農家ではなく、約13 人のプロの経営専門スタッフで構成される。しかし、1000 人の共同体である大きな船の舵取りを行うのは誰でもない、農家自身なのだ。最初は半信半疑で有機農業に転換し、出資した農家も、生産から出荷まで自分たちでできることに自信を取り戻しつつあるという。

 日本にも共同で株式化を行うLLC という制度があるが、約1000 名の農家が共同で起業を行うというのは画期的な取り組みではないだろうか。現在、株式会社設立2 年目、来年には転換期間を終え本格的に有機認証をとり、ヨーロッパへの輸出を行うことになる。成果が現れるのはまだまだこれからだ。大西洋の海原へと乗り出した船の行方が気になるところである。


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