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フィンランド小学校事情 Vol.4

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靴家さちこ フィンランド/ケラヴァ 
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2011-10-09
 

教科編(算数)

 OECD生徒の学習到達度調査(PISA)の結果では、読解力の高さ(2003年1位、2006年2位、2009年3位)ばかりが注目されがちなフィンランドだが、数学的リテラシーも決して低くは無い(2003年2位、2006年2位、2009 6位)。それもそのはず、フィンランドでは、少なくとも小学校低学年までは「算数が一番の得意科目」だという生徒が多いのだ。この事実はあまり知られていないようなので、今回はフィンランドの小学一年生の「算数」の授業の内容についてお届けしたい。

子どもはみんな算数が好き?

 フィンランド人の義姉は、勤続25年を超える小学校の教師だ。その義姉が一年生になって間もなくの息子に「学校では何の教科が好き?」と聞いた。間髪入れずに息子が「算数!」と答えると、義姉は「子どもってみんな算数が好きよね」と満足そうに、納得の表情を見せた。

 私が記憶している限りでは、日本では男子の方が算数好きで、女子には国語好きが多く、休み時間も本を開いている女子が多かったような気がする。(フィンランドでは、休み時間には、すべての生徒が外に出される)が、義姉によるとフィンランドでは性差はあまり大きくないらしい。少なくとも小学校低学年の間は男女ともに、数と記号の単純な組み合わせで「正解」「不正解」と、はっきり結果が出る算数の方が好きだと感じる生徒が多いそうだ。

現役の教師が作る楽しい教科書

 実際に息子の算数の教科書をのぞいて見ると、国語(母国語)と同様、算数の教科書もカラフルで楽しそうである。全教科について同じことが言えるのだが、フィンランドでは、学校の教科書は、一人か複数の現役教師によって執筆されており、教科書の改定は毎年のように行われる。そのおかげで教科書の内容は常に新しく、時代に合った実践的なものに出来上がっている(もちろん、教科書の執筆料は教師達にはありがたい副収入にもなっている)。

 算数の教科書の中で息子のお気に入りの箇所は、ドーナツやチョコレートに、袋一杯のキャンディーといった、おいしそうなイラストの数々だ。宿題で「6ユーロを持ってお店に行くと、2ユーロのベルリーニ・ムンッキがいくつ買えますか?」という問題が出た時など、「ママ、見て見て!」と私を呼びつけ、本人も舌舐めずりをしながら取り組んでいた。

「スキー大会の終で子ども達に配られるベルリーニ・ムンッキ」の挿絵


 ちなみにベルリーニ・ムンッキとは、フィンランドの子ども達が夢にまで見る、ピンク色の甘いジャム入り揚げドーナツのことだ。なるほど、売っているものがキュウリやトマトでも同じ計算式になるが、こんなささいな違いでも、子どものやる気に火をつけることができるようである。

 その他の楽しそうな箇所は、お金の計算だ。ページいっぱいにカラーで描かれた、2ユーロや1ユーロ玉、50セントや5セント玉が、足し算・引き算となって出題されているページが、全体の1割か2割ほどを占めている。

コインがたくさん登場するお金の計算の章


 後日、補助教材として、子ども銀行のおもちゃのような厚紙の貨幣も配られた。お金の計算の章に入った当時、息子とうちに遊びにきた隣のクラスの同級生たちは「もうお金の計算のところ習った?」「僕たちも同じページだよ」と競い合ってはしゃいでいた。もう、小銭を握りしめてお店に出かけていきそうな勢いで。

日本より進んでいる(?!)内容

 一方、日本の算数の教科書では見たことがないものの中に、ハヴィトゥス・パリ(欠けている組)というものがある。上に一つ数字が書いてあり、その数字の下に一つの数字と□(四角)が書いてあり、上の数字を中心に線でその下の数字と□が囲んであるのだが、これは実質上「虫食い算」だ。

いろんな数字で7を作る虫食い算の練習


 例えば、上の数字が6で、下の一つの数字が4である場合、□の中は2となる。大して難しい計算ではないが、同じ数を巡って、例えば上が6の場合には、0+6、1+5、2+4、3+3、4+2、5+1、6+0と、全ての組み合わせを書き出す作業を繰り返す。


 0については、「何も無い」のような、ゼロの概念を解説する箇所は無く、「1+0=1」というふうに、いきなり数式の中に登場している。マイナスの数字も登場する。こちらはさすがに数式にまでは使われていないが、0より少ない数として紹介されている。
 マイナスの数は小学校低学年でも見慣れない数字ではないからだ。11月後半から3月上旬にかけて、気温が氷点下になる日が何日もある。この国で7割を超える共働きの家の小学生達は、朝出かける前に、窓の外の寒暖計を見て、その日に着ていく外套や手袋を自分で選ぶ。親たちは出社時間が早く、下の子ども達を保育園に送り届けるために、小学生の登校時間の前には、家を出てしまうことがほとんどなのだ。マイナスの数字が大きくなればなるほど寒さが増すことは、小学生でも知らなくては生きていけない必須の知識である。

0や<、>の記号が遠慮なく登場する追加課題


 また、大きさの比較を表す<、>の記号も登場する。初めは、数の大小や序列を把握する為にだけ使われているのだが、学年末には数式の一部としても使われるようになる。

 驚きなのは、花や動物の絵をXやYに見立てた一次方程式だろう。これは、リサ・テヘタヴァ(追加課題)として出ており、時間に余裕がある生徒が任意で取り組む課題に含まれているのだが、日本では中学校、及び中学受験に出題されるような複雑な内容が、パズル形式で楽しく取り組めるようにできている。

四角い頭を丸くする?花や動物の方程式は見た目もやわらかい印象

 このように、あとで正式に学ぶ内容が、より簡単な形で子どもの視野にも入るように工夫されている箇所の数々に、教科書の著者の、子ども達の頭の柔らかさに賭けるチャレンジ精神が垣間見られる。

 しかし全体的にみると、小学校3年生ぐらいまでは、取り立てて日本で教えられている「算数」より進んでいるわけではない。個人的には、日本の算数の文章問題の方がそれなりに国語力も問われるので、難しいような気がするが、フィンランドの小学1、2年の限りでは、あまり長い文章問題は目にしない。
 文章問題もまた、少し趣向が違っていて、文の中から数式を導き出すものよりは「AはBより背が低く、CはBより背が高いがこの中で背が一番高い人は誰でしょう?」といったロジックを鍛えるものの方が多い気がする。

 このように、始まりの段階では違いは微々たるものだが、一つだけはっきり言えるのは、フィンランドでは、「早期教育」で早い段階からとんでもなく難しいことを生徒たちに仕込んでPISAの得点を挙げたわけではない、ということだ。むしろ基本を何度も何度も繰り返して土台固めをしっかりしている。

次回は、「自然環境」という教科についてふれてみよう。


フィンランド小学校事情 Vol.5
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フィンランド小学校事情 Vol.3 ~時間割と教科編(母国語)
フィンランド小学校事情 Vol.2 就学前教育編
フィンランド小学校事情

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