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日本の脱原発運動も参考にできるアメリカ市民的不服従の事例:XLパイプライン反対運動、Occupy運動

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江崎絢子 オレゴン州ポートランド市
day
2011-11-18
 

1.「反対表明」ではなく「支持表明」のための集まり

 11月6日、ワシントンDCで、ホワイトハウスを囲む大規模な集まりが行われた。キーストーンXLパイプライン建設に関する「絶対的な決定権」を持つオバマ大統領に「建設中止を願う支持者がたくさんいる」というメッセージを送るというのが目的だ。
 この日ホワイトハウスに集まった1万2千人以上の支援者が掲げたメッセージは、「2008年にオバマ大統領に投票したアメリカ国民が約束されたのは政治ではなく、地球の将来を優先するリーダーシップ」というものだった。

 この集まりのタイミングを考えると、このメッセージは2012年の大統領選挙での再選をかけるオバマキャンペーンに対する投票者からの「私たちが投票した理由を忘れないで」という「リマインダー」であったとも言える。

 ホワイトハウスでの集まりが行われる前日、気候変動に関する活動を世界中で展開する 350.orgという団体からメールで、私が住んでいるポートランド市で11月6日に行われる集会への招待が届いた。以下は、その招待文の和訳の一部である。

 オバマ大統領が、公約通り「石油企業の専制を終わらせ」、「ワシントンDCの政治をクリーンに改革する」ことを優先するのかどうか、それは私たちにかかっています。DCの反対運動に参加した人々との団結を表明するのは大変重要です。キーストーンXLパイプラインへの反対が東海岸から西海岸まで国中に広まっていること、そしてパイプライン建設中止をするために必要な国民の支持を大統領は得ているのだ、ということをアピールする機会だからです。

 私は環境問題や社会改革に強い興味はあるが、普段はプロテスト活動などに積極的に参加することはない。ポートランド市でも10月から「Occupy」運動が続いていているが、正直なところ直接足を向けるのは億劫だった。だた、ポートランドでのキーストーン反対の集まりに参加することを決めたのは、この「建設中止の決定への支持をアピールする」と具体的な目的に意義を感じ、参加者数が多ければ多いほどインパクトが強い、という数の効果があると思えたからだった。

ポートランドでの反対運動支持者が掲げたバナー。オバマ大統領自身の発言である「我々の地球の未来がかかっている時、今までのような弱気な政治を続けている余裕はない」を用いている。


2.運動の行方をクラウドソーシング

 11月6日にポートランド市での集まりを主催したのは「Stop the Keystone XL Pipeline PDX」というグループ。これは、全国的に反対運動を展開しているTar Sand Action などの団体の活動を受け、地元の支援者により立ち上げられた小規模なグループで、Occupy PortlandClimate Justice Portland、そしてSierra ClubのOregon Chapterの3つの団体と提携している。

キーストーン反対運動の集まりが行われた公園は、Occupy Portlandのベースキャンプのすぐ隣だった。


 アメリカ各地で、そして世界中にも広まっているOccupy運動と、キーストーンXLパイプライン反対運動は、一部の利益ではなく、人々の健康や環境を優先する政策を要求するという点で、その活動趣旨を共有している。この日の集まりでは、Occupy運動の自然発生的な広まりと、その市民主体の精神を象徴するオープンな雰囲気が感じられた。

 正直なところ個人的にはOccupy運動の「だらだらした感じ」に苛立ちを感じることもあり、このキーストーン反対の集まりも、理想を述べることだけに終始してしまうのでは、という懸念があった。実際に、キーストーンについて講演が行われていたとき、タバコの吸い殻やコカコーラの空き瓶をポイ捨てしながら雑談を続けていた「99%」のバナーを掲げた人たちの姿も見られ、「これでいいのだろうか」と思う一面もあった。

 一方で、Occupy運動やキーストーンXLパイプライン反対運動などの「市民の声」を集めて変革を目指す運動の決定的な強みとは、一見真剣とは思えない態度で参加する人もいるという現実を含めての、「オープンさ」である、と実感した。
 これらの運動は、年齢・政治的意見・出身・人種・宗教などに関わらず、市民の視点から自分たちのコミュニティーにとって大切な権利を主張するために、いろいろな人がいろいろなところから集まって構成されている。このような運動が持つ、解決策の模索やリーダーシップ確立プロセスにおける「クラウドソーシング」的な、不特定多数の人が貢献できる参加型アプローチと、クリエイティブな発想を促す柔軟性には、大きな可能性が秘められているのでは、と思う。


Occupy Portland Media Coalition (http://www.youtube.com/user/OccupyPDX) による11月6日の集まりの映像。ポートランド市の警察と事前に話し合い、全面的に協力を受けての開催であった。市の中心部にある連邦裁判所を手をつないで取り囲むことで団結を表明。市内の公園から裁判所までの数ブロックを警官十数名が自転車で安全確保のために誘導をした。


3. 一時的な目的達成を最終ゴールにしない

 この日の集まりで演説をした講演者の一人、Community Environmental Legal Defense Fund (CELDF) という団体の活動家フシュケ氏は、「オバマ大統領にパイプライン建設中止を呼びかける」という集まりの目的自体に疑問を投げかける提言をし、「大統領、または連邦政府が、市民の生活に影響するプロジェクトの実施を決定する絶対的な決定権を持つ、という構造を我々が受け入れてしまっていることを、まず見直さなければならない」と語った。

この日の集まりでは、地元のバンドによる演奏に続き賛同団体を代表して4名が演説をした。


 CELDFは、地元住民がコミュニティーのレベルで自分たちで統治する権利、そして「自然」を存続させる権利を実現させるために法的、社会的、経済的な支援を行うことを目的とする非営利団体である。同団体の始まりは、1995年ペンシルバニア州で、ごみ処理所や採石場などの住民の意思に反する建設プロジェクトへの反対活動を支援した経験だった。

 このような草の根反対運動は、企業の建設権認可書に必要な項目が抜けていたことを指摘し、州の環境保護庁にその違法性を訴えることで建設中止にこぎつけることができたが、これらの「勝利」は一時的なものに過ぎず、企業側は訂正を加えて認可書を再発行してもらうだけでプロジェクトの実施が可能だった。当時、州の法律によれば地元住民が他のやり方で法的に反対できる手段は残されていなかった。

 このペンシルバニアでの経験から、CELDFは、住民が望まない企業の活動に反対し阻止しようとする運動ではなく、地元コミュニティーが自分たちの統治権を主張して企業の活動をコントロールするための法的手段を使うようになった。
 企業の利益のための自然資源の搾取や土地利用の例は世界各地で多々あるが、企業(や政府)の利権が「大きすぎて」地元住民の反対は聞き受けられない、というのがたいていのシナリオだ。法律で地元住民の権利を保護する力が弱いため、法的に太刀打ちできない、というケースももちろんある。ただ、多くの場合は地元住民自身が自分たちの自治権をどう主張できるか知らない、法的知識がない、というところに弱みがあるのも事実だ。

 フシュケ氏は、90年代後半から支援を続けているペンシルバニアのコミュニティーの中で、大規模で工業化された畜産農場や、農地の汚染の恐れのある工場の建設を、上記のアプローチを使って法的に妨ぐことに成功した自治体の例を掲げ、キーストーンXLパイプライン反対運動も、一時的な目的達成を最終ゴールにしないことが重要、と呼びかけた。
 どんなに反対者の数が増えても、オバマ大統領は最終的に建設を許可してしうかもしれないし、例え建設が却下されたとしても数年後同じプロジェクトが違う形で許可されることもあり得るからだ。

 長期的な効果を目指すためのフシュケ氏の提案は、パイプラインが建設されたらその影響を直接受ける地域(ネブラスカ、カンザス、オクラホマ、テキサス)の地元住民が、自分たちの土地で行われる建設事業の最終決定権を持つための変化を法律上定めることを反対運動の目標として定めること。
 一時的な「許可」「却下」という目標を掲げて、その結果がでた時点で運動をやめてしまうのではなく、将来似たような開発の脅威が起こった時にそれを妨げられるように市民の力を強めなくてはいけない、と語った。

 この演説を聞きながら、現在日本で起こっている原子力発電に対する反対運動のことを考えずにはいられなかった。原子力発電所の廃止、そして最終的に安全な処理が行われるまでの道のりは、数ヶ月・数年ではなく、数十年という長期戦である。
 2011年3月11日から数年経って、市民の「熱が冷めた」頃に再び原子力への投資を増やす政策が通ってしまう、といったことにならないように、これからの日本での市民運動は、地元住民の反対の声を署名運動などで公的に表明するだけでなく、法的拘束力のある形で原子力発電関連の開発を不可能にする決定を目指し、法律関係の専門家との提携が必要になってくるのではないだろうか。

追記:その後の動き

 11月10日にホワイトハウスは、キーストーンXLパイプラインの建設提案を環境省による再検討委員会に委託し、12−18ヶ月かかる再考を義務づけた、と発表。反対運動の市民グループの要請(建設提案の完全却下)は受け入れなかったものの、多くの専門家はこの再検討のプロセスを建設プロジェクトの「事実上の終わり」としたため、この大統領決定は市民運動の(一時的な)「勝利」として歓迎された。

 11月12日、ポートランド市中心部の公園で10月6日からベースキャンプを立ち上げ「占領」を続けていたOccupy Portlandは、市政府による撤去要請を受け5000人以上の支援者によるプロテストを展開。逮捕者は一人、怪我を負った察官一人(警官に物を投げた市民が他の参加者により警察に連れて行かれた)、「パーティー」のような集まりと化したプロテストは夜通し続いたが、翌朝には市長の発表通りOccupy Portlandのベースキャンプの撤退が実施された。


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