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レバノンの今:佐野光子先生インタビュー(前半)

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ほうきじゅんこ ベイルート、レバノン
day
2011-12-01
 

 レバノンから、日本と中東をつなぐ人物のインタビューをお届けします。今回は、レバノンの大学で日本語教師として教鞭をとる佐野光子先生にお話を伺いました。もともと佐野先生のご専門はアラブ映画の研究ですが、ベリーダンスについても詳しく、レバノン在住6年目になられます。それではさっそく、先生のレバノンでの体験を元に、アラブ世界をのぞいてみましょう。

Q: 日本人にはまだまだ馴染みの薄い中東ですが、中東に関わったきっかけは何ですか?

A.子供の頃から漠然と“中東的なもの”に惹かれていました。中東風のメロディーや物語が大好きで、学生時代にはイラン映画にはまったりベリーダンスを習ったりしました。けれども、当時は中東を人生のメインに据えようと考えていたわけではありません。

 ターニングポイントは、2000年に初めてアラブ映画に出会ったことです。この後、モロッコからイエメンまで、映画研究のために足を運びました。 やがて東京でのアラブ映画祭の企画やカタログ執筆などに関わるようになり、2006年1月にはベイルートのセントジョセフ大学へ、日本語を教えるために赴任しました。

 現在は、同大学に設立された学術交流日本センター(通称CAJAP)で日本語を教えたり、シンポジウムや映画上映会などのイベントを開催したりしながら、アラブ映画の研究を続けています。

大学の授業の様子


Q:レバノンに来てよかったこと、またカルチャーショックだったことについて話して下さい。

A. 実は私、アラブ圏でカルチャーショックを受けたことがないんです。もともと互いに地理的にも文化的にも隔たりがあるという認識があったので、こちらに来てむしろ文化の違いよりも共通点を感じることの方が多かったですね。

 アラブの良いところは、すべてにおいてフレキシブルなところです。そのフレキシブルさは時間感覚のルーズさなどマイナス面と両刃の剣ではあるのですが、私にはその「ゆるさ」がとても心地よく感じられます。

 また、こちらではひょんなことから有名人や身分の高い人に簡単に会えてしまったりするのがいいですね。 強固なシステム社会の日本とは対照的に、アラブはネットワーク社会といわれる所以でしょうか。

Q: 女性には自由が制限されていると思われがちなアラブ社会ですが、女性としてレバノンに滞在してよかったと思うことは?

A. 特にレバノンの場合は、女性でもアグレッシブに働ける点が気に入っています。内戦で命を落としたり、仕事を求めて海外へ出たりしてしまうレバノン人男性が多いからなのか、レバノン国内では圧倒的に女性の人口が多くなっています。

 したがって多くの女性が働いており、実際私が勤める大学でも管理職に就く女性が多く、男性職員に対しても対等の物言いでバリバリと働いています。また、かつてフランスの保護領だった影響からなのか、レバノンではレディーファーストが徹底しています。エレベーターに乗る時も、道を渡る時も、男性は女性に対して大変親切です。

 レバノン以外のアラブ諸国でも、よきイスラム教徒の男性というのは女性を丁重に扱うものなので、バスの中で女性が立っていると男性がスッと立ち上がって席を譲る場面もよく目にします。むしろ、たまに日本に帰って、男性が女性を押しのけるように電車に乗り込んだりするのを見ると逆にカルチャーショックを覚えます。

Q: レバノン人と接していて、日本人と違うと思うところは何ですか?

A. アラブでは一神教徒がほとんどなので、やはり宗教に対する感覚が日本人とは全く違うと思います。それはイスラム教徒だけではなくキリスト教徒にも言えます。カトリック系のキリスト教徒にも好きな飲食物を断つ断食期間があり、きちんと遵守している人が多いです。

 教会の前を通ったり、教会の鐘の音が聞こえたりすると、サッと胸で十字を切る人たちもよく目にします。とは言え、学生の中には「自分は無宗教だ」という子達もいるので、少しずつ状況は変わりつつあるのかもしれません。

 それから、人間関係の在り方が全く違うと思います。アラブ人はそれこそ家族や親戚を本当に大事にして、何よりも優先します。以前、レバノン人の知人に日本では借金を苦にした自殺が多いと言ったら、「レバノンではそんなことはあり得ない。借金があれば他の兄弟がそれを払うだけ。それでハラース(おしまい)」と言われました。


ベイルートのセントジョセフ大学

CAJAP(日本学術センター)前で


Q: 最近中国の存在がレバノンでも大きくなりつつあります。中国はアラビア語でのニュース番組も持っていますし、孔子学院もレバノンに参入して中国語と文化の普及に熱心です。それに比べて日本が劣勢なのはなぜだと思いますか?

A. 今の日本には海外に日本文化を広めるための文化予算がほとんどないというのが第一の原因だと思います。次に、日本とレバノン間の地理的距離と、隣国にイスラエルがあるという地政学的な不安定さが日本人を遠ざける理由になっていると思います。

 実際、2006年のイスラエルによるレバノン攻撃も突然起こりましたし、そういう急変の可能性がある国は、リスクを回避しがちな日本人にとって進出しにくいのではないでしょうか。

 ビジネスに関して言うと、購買力のある中産階級の人口がそれほど多くないということも、日本企業にとってはあまり魅力のないマーケットなのかもしれません。そう言えば、レバノンに進出していたダイソーも、今年撤退してしまいました。

 逆にリスクがあっても、韓国や中国の企業は中東に進出しています。例えばサムソンなどは危険でも敢えてバグダッドにオフィスを構えていますから、これはお国柄の違いもあるのかもしれません。日本人は、やはり少々神経質に安全を求める傾向にあるのではないでしょうか。

Q: 日本人とアラブ人との相互理解を深めるには、どうすればよいでしょうか?

A.  やはり言葉だと思います。アラビア語の重要性は言うまでもないのですが、その前に、日本人がもっとストレスなく英語を使えるようになるとアラブ諸国でも役立つはずだと考えています。こちらでは大学を出ている人たちの多くは上手に英語を話しますし、レバノンでも10年前に比べると流暢に英語を使いこなす若者の数は飛躍的に増えています。

 日本人も言葉の段階でつまずいていては本当にもったいないと思いますので、やはりまずは英語から、ですね。残念ながらジャパン・アズ・ナンバーワンの時代ははるか昔に過ぎ去り、アジアと言えば中国だとアラブの人々も思い始めています。となると、日本も多々ある国々の中の一つとして謙虚な気持ちでアピールし、興味を持ってもらうことから始めなければならないと思っています。(続く)


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