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レバノンの今:佐野光子先生インタビュー(後半)

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ほうきじゅんこ ベイルート、レバノン
day
2011-12-13
 

レバノンのセントジョセフ大学で日本語教師として教鞭をとる佐野先生へのインタビュー、後半は2006年のイスラエルとレバノンの戦争のこと、映画やダンスなどのアラブ文化を中心にお話ししてもらいます。

Q:イスラエルとレバノンの戦争(2006年)の様子について聞かせて下さい。

A.戦争が始まるほんの数日前までサッカーのワールドカップが開催されていて、ベイルートの繁華街では夜な夜な人々が集まり、スポーツ・カフェで遅くまでシーシャ(中東風の水煙草)をふかしながらテレビ観戦する日々が続いていました。
 フランスが勝つと近所のフランス大使館の敷地からお祝いの花火が上がったりしてお祭りムードの平和な日常でした。

 そんなある日、朝早く突然日本大使館から電話があり、イスラエル軍がベイルートの空港を爆撃したことを知りました。空港爆撃から始まる戦争なんて想像もしていなかったのでびっくりしました。その日の夜、寝ていると夜中にドカーンという大爆音が至近距離から聞こえ、急いで窓を開けてみるとイスラエル戦闘機らしき機体が飛び去って行くのが見えました。その後5分くらい遅れてレバノン軍が対空砲を撃つ音が聞こえ、ただならぬことが起こっていると実感したんです。

 私の住んでいる地区はキリスト教地区ですが、直線距離にするとイスラム教シーア派地区(イスラエルがベイルート市内で主にターゲットとしていた地区)にも近いので、爆撃音がする度に、窓ガラスがビリビリ揺れました。私が住んでいた学生寮では、爆風で窓が割れないように、窓を開けておくようアドバイスされました。

 空港は爆撃されて使えなかったので、タクシーで隣国シリアに逃げようと考えましたが、電話が繋がらないためタクシーも呼べず、銀行のATMも一定額以上はお金を引き出せず、スーパーに行っても水やめぼしい食品はほとんど残っていない有様でした。東日本大震災直後の日本もこういう状況だったのかもしれないと思うと、私は似たような状況をレバノンで一足早く経験したことになります。

 当時、海はイスラエルの軍艦に塞がれ、空からは爆撃が続いていましたから、たとえタクシーが見つかったとしても安易に動くのはためらわれました。隣国シリアのダマスカスに抜ける陸路は意図的に爆撃されていたので、そのルートで逃げるのは余計に危険だとも思われました。

 包囲されていたため石油も入って来ず、ガソリンの値段が急騰し、タクシー料金も普段の十何倍にもなりました。結局、大使館やレバノン警察の助けもあり、北の別ルートで何とかシリアに逃げることができたのですが、この時、戦争というのはある日突然始まってこうなるのだと実感しました。

Q:日本人におすすめのアラブ映画と、その魅力は?

1.『テロリズムとケバブ』シャリーフ・アラファ監督(エジプト 1992)

 エジプトの喜劇王アーデル・イマーム主演、エジプト大衆コメディ映画の金字塔。92年の作品なので若干古臭さは否めないものの、テロリズムや様々な社会問題をあくまでも社会派コメディという形式に昇華した手腕が素晴らしいです。

2.『ズーズーにご用心』ハサン・アル=イマーム監督(エジプト1971)

 「エジプト映画のシンデレラ」と称された美人女優、故スアード・ホスニーの出世作。ベリーダンサーの母を持つ下層階級の娘と上流社会出身の男との身分違いの恋をさわやかに描き出した学園ミュージカルで、ホスニーのベリーダンスも見られます。音楽もノリがよくて楽しいです。

3.『ガリレアの婚礼』ミシェル・クレイフィ監督(パレスチナ 1987)

 パレスチナ映画を世界に知らしめたクレイフィ監督の代表作。アラブ映画でありながら花嫁の全裸シーンが登場するなど、アラブの観衆の間で激しい論議を呼んだ問題作でもあります。時にオリエンタリズムと批判されながらも、そのエキゾチックな映像美には目を奪われます。

4.『パラダイス・ナウ』ハニー・アブーアサド監督(パレスチナ 2005)

 自爆攻撃に向かうパレスチナ人青年二人の最後の48時間を描き上げた問題作。監督は日本の神風特攻隊として散った若者の手紙を熟読するなどしてシナリオを練ったそうです。「テロリスト」となる青年の素顔を切なく浮きあがらせます。

5.『キャラメル』ナディーン・ラバキー監督(レバノン 2007)

 女性か、フェミニスト志向の男性にお勧めの作品。現代のベイルートを舞台に、それぞれに年齢も宗教も異なる女性たちの生き方を、生き生きと写しとった作品。本作で主演もこなす美しきラバキー監督は、最近封切られた第2作目も大好評で、今やアラブ女性を代表するオピニオン・リーダー的存在となっています。

ご自宅にて


Q:アラブ映画を見る時に、こういうところに注目して欲しい、というアドバイスはありますか?

A.やはり歴史や政治的・民族的背景などを最初に軽く勉強しておくと、より楽しめると思います。例えば1967年の第3次中東戦争以前を舞台にした映画では、イスラム教徒とキリスト教徒、ユダヤ教徒がともに仲良く暮らしている描写があったりします。それから、アラブ人はスクリーン映えする顔の人が多いので、「顔」自体も魅力です。

Q:最近日本でも流行の、ベリーダンス(オリエンタルダンス)について聞かせて下さい。

A.そうですね、最近は日本でも「月刊ベリーダンス」という雑誌も出ているくらいですから、だんだんお馴染みになってきましたね。日本人は練習熱心で、教わったことを素直に自分のダンスに取り込む人が多いので、世界的に見ても技術はかなり高いレベルを保っていると思います。

 ベリーダンスは元々、土着のダンスで、中東各地にそれぞれ異なったスタイルのベリーダンスがあります。砂漠で踊ると足を砂に取られて動かしにくいため、足はあまり動かさずに体幹や臀部を駆使してくねらせるベリーダンスが生まれたのではないかという説もあります。そういう昔ながらのフォークダンスが、ハーレムや、後にイスタンブールやカイロといった大都市のキャバレーなどでより洗練された形に進化し、ダンスのジャンルとして徐々に確立されていきました。

 私たちがよく見る、いわゆるキャバレー・スタイルのベリーダンス(きらびやかなブラと腰巻きをつけて踊るダンス)が生まれたのは意外と最近で、20世紀前半です。アラビアン・ナイトなどで描かれる時代のベリーダンスは今のものとはまた違ったものだったと思われます。このキャバレー・スタイルは、実は古典ハリウッド映画や古典エジプト映画の影響なども受けつつ、東西の想像力が混ざり合ってできた産物ではないかと私は考えています。

Q:ベリーダンスを鑑賞する時のポイントは?

 ベリーダンスを見る時のポイントは、やはり腰の動きです。本物のプロのダンサーは腰の可動域の広さがすばらしく、肩を微動だにせずに腰だけで複雑怪奇な動きを見せてくれます。

 腰を小刻みにカタカタと微振動させる「ラアシャ(アラビア語で「震え」という意味)」という動きも特徴的で、中には単に歩いているように見えても、数十分のショーの間中、ずっとこの微振動を続けるダンサーもいるんですよ。ラアシャを利用して、お腹の肉や豊かな胸をプルプルと震わせたりするなんていうのもエンターテイメントの一環です。

 踊りのスタイルも、例えばトルコとエジプトでは違います。トルコの方はどちらかと言えば軽やかで、時にジプシー的な要素も加わりますが、エジプトの方は衣装の飾りからして重々しくずっしりした感じで、アフリカっぽいパワーがあります。

 エジプトのベリーダンスはとにかく腰のムーブメントが豊富で、迫力があります。インドの踊りのように首を横にスライドさせる動きも重要ですね。重くて大きい「シャマダン(キャンドルスタンド)」を頭の上に乗せてエネルギッシュに踊るなんていうのもエジプトらしいベリーダンスです。

 最近はベリーダンスの中心は、中東よりもむしろニューヨークなど欧米の大都市に移っている観があり、刀など、本来の中東のダンスにはなかった小道具を使った見栄えのするショーが人気です。80年代から90年代のエジプトのベリーダンサーたちは、 古典エジプト映画のスターダンサーを手本にしていたと聞きますが、今の若い世代のダンサーは欧米のダンサーから逆輸入的に多くの着想を得ているようです。(了)


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