reports

LEARNING

back
prev_btnnext_btn
series
title

フィンランド小学校事情 Vol.5

leader from from
靴家さちこ フィンランド/ケラヴァ 
day
2012-04-01
 

小学校の「いじめ対策」

 1990年半ばの調査によると、フィンランドの就学中の生徒達の中で、いじめをしたことがある子どもは8%、逆にいじめの被害を受けたことがある子どもは12%ほどである。この数字は、OECD(欧州経済協力機構)の中でも平均的で、決して高くはない。それにも関わらず、フィンランド政府は、2003年より全ての公立校に対して、いじめ対策やいじめに対するアクションプランを採択することを義務付けた。

 2006年には教育文化省の支援を受け、トゥルク大学のクリスティーナ・サルミヴァッリ(Christina Salmivalli)教授が「キヴァ(KiVa)」といういじめ対策プログラムを考案し、現在では9割もの公立校が同プログラムを採用している。今回は、長男の学校を通じて、学校レベルではどのような「いじめ対策」が施されているかについて触れてみたい。

入学後すぐに「いじめ問題」のレクチャーが

 長男が小学一年生になって、「えっ、もう!?」と驚いたことの一つが、「いじめ」についてのお話である。それは入学後わずか3日後のことであった。長男のクラスに校長先生が直々に、「いじめ」についての話をしにきたという。校長先生は、まず、いじめとは何かを生徒たちに具体的に例を挙げながら定義づけたそうだ。

 端的に言うと、自分がされたら嫌なことを誰かにするのは「いじめ」である。さらに言うと、自分だったら嫌ではなくても、されている「本人」が嫌だと感じていたら、それもやはり「いじめ」行為に相当する。身体の特徴を表わすあだ名付けも禁止事項の一つに入っていた。いじめが始まってしまう前に、こういった話が持ち出される動きの早さに、心強さを感じたものだ。

 長男が入学する前にも、他の小学校で取材をしたことがあったが、そこでも先生方から「いじめ」の話を聞いた。先生方によれば、フィンランドの小学校で問題となるいじめの特徴は、低学年児が被害者になることだそうだ。
 例えば、特定の低学年の女子に対し、高学年の女子数名が「まだお人形遊びをしている」などという理由でからかったり、給食の時間には、全校生徒がカフェテリアでビュッフェ式に各自トレーを持って並ぶのだが、この列に高学年の生徒が体当たりで割り込みをしたり、などということだ。

 この割り込み問題に対処するために、その学校では高学年と低学年が時間差で給食をとっている。その学校や長男の学校に限らず、給食の時間が高低の学年別に分かれているのは珍しいことではない。それにしても、からかいや割り込みのごときが「いじめ」とみなされる、良い意味でのハードルの低さに驚いたものだ。



黄色いベストの見回り先生

 上記と同じ理由で、低学年児がいじめられることが無いように、休み時間も学年別に分けてとる学校がほとんどだ。そればかりではない。休み時間には、生徒は教室に残らず、全員外に出なければならないのだが、そこには必ず見回りの先生が数名付く。

 目につきやすい黄色のベストを着用して。生徒たちが校庭で不当な扱いを受けたり、いじめられたりしたら、その黄色を目指してまっしぐらに走っていけば良いのだ。一方、この黄色いベストから隠れて、校庭のもっと隅っこの方へと場所を変え、いじめが陰湿化するという弊害があるため、着用せずに校庭で私警察のごとく目を光らせる先生もいる。

 先に触れたKiVaといういじめ対策プログラムは、長男の学校でも今年の秋から導入されることになった。これについても、すぐに学校からクラス別の説明会が開かれ、説明会に欠席すると返事した家庭には、先生から再確認を取られるほどの念の入れようだった。

 Rの発音ができない、母親がガイジン、鬼ごっこなどのサバイバル系の遊びが苦手などと、いじめられる要素が全くゼロとはいえない長男が、まる一年、何事も無く過ごせてきているので、「まだこの学年ではいじめはないのだろう」と考え、私も夫もその会には参加しなかった。

 そうでなくても長男の学校には、取材や日本の文化紹介でも、ちょくちょく足を運ぶのだが、休み時間に教室で先生と打ち合わせやインタビューをしていると必ず、生徒やアシスタントの先生が息を切らせて駆け込んでくる。生徒同士のけんかやいじめなどの報告をするためだ。そして担任の先生が、問題の生徒に毅然とした態度で向かっていくのも目撃しているので、この学校なら大丈夫、と安心していた。

それでも実在する「いじめ」

 ところが、長男が二年生になってから、その平和そうな長男の学校の校庭で、夫が「いじめ」を目撃してしまった。被害者は、息子の隣のクラスのV君である。V君は、先天的に目が常に中央を見据えているような顔立ちをしており、体も学年の割には大きく太めで、授業中に先生の話をさえぎったりと、振る舞いにも問題がある少年だった。

 そんな、いついじめられてもおかしくなさそうな彼であったが、一年生の時には友達も多く、お誕生会も両親が楽しいイベントを用意して大盛況だった。そのV君を、うちにも遊びに来たことがあるO君とG君を筆頭に、数名で鬼ごっこに見せかけて、いじめていたのだという。鬼ごっこのルールは、V君には病原菌がついており、V君に触られると死んでしまう。そしてV君はいつまでたっても鬼というものだった。

 夫は「彼らはまだ、どこまでが遊びでどこからがいじめなのかの区別がついてないのだ」と眉間にしわを寄せた。せめてもの救いは、その不愉快な”遊び”にクラス全員が加担してはやしたてたり、面白がって傍観していた子ども達がいなかったということだろう。
 これは単なる偶然だったのかもしれないが、前述のKiVaプログラムを特徴づけている「傍観者」を作らないいじめ対策が効力を発揮していたのだとしたら素晴らしいことだが、単なる幸運な偶然だとも考えられる。



「サイバーいじめ」も防げるか?

 2009年には「欧州犯罪防止プログラム賞」も受賞しているKiVaプログラムは、今フィンランドでも小学校高学年以上で問題となっている「サイバーいじめ」にも効力があるという。が、実際のところはどうなのか?あるいはどのように効力を発揮するのだろうか?

 共働き家庭が7割以上というお国柄、ケータイは1年生の時からほとんど全員が持っているのが普通という状態で、2年生の半ばに至るまで、長男の身の回りでは、まだそれらしきものについては見聞きしたことが無い――が、それはまた、今後、長男の成長とともに嫌でも知らされることとなるはずであろう。


フィンランド小学校事情 Vol.4
フィンランド小学校事情 Vol.3 ~時間割と教科編(母国語)
フィンランド小学校事情 Vol.2 就学前教育編
フィンランド小学校事情

このエントリーをはてなブックマークに追加





クリエイティブ・コモンズ メンバー募集 メルマガ 受託型リサーチ レアリゼブックストア サポーター募集 twitter mixi face Flickr