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発酵する世界~3.11後の希望について語ろう~

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せこ三平(山村玲生) 茨城県古河市
day
2012-02-12
 

腐敗から発酵へ

 食べ物が腐敗するのも、発酵しておいしくなるのも、微生物の働きです。私たちが生きているこの世界も、腐敗するのか、発酵へ向かうのか、私たちが決めるのかもしれません。

 人の体内にも、たくさんの微生物が暮らしているそうです。
 善玉菌と呼ばれるもの、ばい菌、悪玉菌と呼ばれるもの、そして、どちらが優勢になるかによって変わる「日和見菌」というものも…。おもしろいなあ、と思います

 千葉県神埼町で三百年以上続く造り酒屋の寺田本家。 今年の1月9日、池袋のオーガニック・バー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」のオーナーで、『減速して生きる~ダウンシフターズ』の著者でもある高坂勝さんのご案内で、寺田本家見学ツアーに参加しました。

 23代目当主の寺田啓佐さんは、一時、大手メーカーの作るような大量生産の酒を造って、利益を追求しようとしていた時、体を壊して、「腹が腐った」といいます。
 その後、「百薬の長といわれる、本来の酒造りに戻ろう。利益を考えず、みんなが喜ぶものを造ることだけ考えよう」と決心された寺田さん。

 腹の虫がおさまる。
 腹を決める。
 腹が据わる。

 日本語には腹を使った表現がたくさんありますが、それらは、お腹の中にいる微生物に関連しているんだそうです。
 頭で考えるより、腹で考える。無数の微生物の意識が、私たちの行動にも影響しているのかもしれません。
 寺田さんは、「腹が発酵すること」が大切だとおっしゃっていました。

 私は、宮城で震災に逢いました。
 福島で自然農を学んでいた仲間たちも、師匠も、全国に散り散りになりました。

 3.11後の世界をどう生きるのか。
 私なりに今の思いを綴ってみようと思います。

寺田本家遠景。近くに鎮守の森があり、良い地下水があって、酒造りに最適の地と言われます。


酒米を手で水洗いする作業。以前は機械でやっていたものを、手作業にして、ゴム手袋すらやめたそうです。


原発事故は誰のせい?

 放射性物質の汚染が拡散しています。この現実は、間違いの無い事でしょう。しかし、このことに対する個々人の反応は様々です。

 怒る。
 憎む。
 恐れる。
 避難する。
 無視する。
 気にしない。
 測る。

……いろいろとあると思いますが、私も正直事故直後は、限られた情報の中で、放射能の恐怖にとらわれてしまいました。

 宮城県南部。福島第一原発から、北西の風下にあたる…。

 逃げなければ…しかし、ライフラインが止まり、食料も水も確保しなければならないし、身辺が混乱していて、それどころではない状況。
 余震が頻発し、唯一の情報源であるラジオからの事故の情報は二転三転。
 平静ではいられませんでした。

+++


 震災から3か月後の去年6月、私は、ずっと心の支えになってくれた以前からの婚約者と予定通り入籍しました。彼女の存在がなければ、私は立ち直れなかったかもしれません。

 昨年9月から、茨城県古河市に移り住み、フェアトレードと発酵食品のお店を始めました。ここはもともと彼女の亡くなった伯母が住んでいた地で、宮城から避難してきたわけではありません。たまたま相続した小さな家があったというだけです。ネットショップと、自宅の片隅を利用して、夫婦でゆるゆる不定期営業をやっています。
 
 私は、原発事故の被害者なのだろうか、加害者なのだろうか…?そう考えることがあります。

 社会に対して責任を持つ年齢が仮に二十歳だとして、それからの年月、地震国日本にこれだけの原発が出来てしまったことには、日本国籍を持つものとして、責任は免れないでしょう。

 しかし、そのことに罪悪感を持ったり、逆に被害者意識を持って、原発を推進する者たちに怒りや憎悪を向けるということを、私はやめたいと思っています。
 被害者であろうと、加害者であろうと、もう私たちは放射能と共に生きていくしかないでしょう。

 不安も恐怖も、怒りも憎悪も、確かに何かの意味はあるのでしょうけれども、私はそのどれも選択しないことにしました。
 それらは、やすらかな心を求めている人たちを、さらに傷つけてしまうと思うからです。

 食べ物に気をつけることも、脱原発の働きかけも大切だと思っています。でも、大きな声を出さないで、興奮しないで、静かに希望を語りたいです。
 お前は声がでかいんだよ…さんざん言われました(笑)。自分だけが正しいと思った時、人は簡単に人を傷つけてしまいます。
 興奮して話すクセは、なかなか治りませんが……そんなとき、愛妻ちえむしは、聞いているふりをして、眠りに落ちます。すばらしい対処法。やっぱりただ者ではない…ちえむし…。

+++


 食べ物に関して、私は、「これ食べちゃダメ」というよりも、「これ食べるといいよ」と言いたいと思います。そのほうが楽しいし、きっと役に立つんじゃないかなー、と。

 宮城県南部の丸森町というところにとどまって、天然の味噌作りを続けるという選択をした、太田茂樹さんという方がいらっしゃいます。とても悩まれたようですが、原料の大豆についても、今まで通り丸森のひっぽというところで無農薬栽培を続けられています。
 今販売している味噌と、来年販売するものは震災前の仕込みなので、放射性物質の影響は全くありません。さらに、今仕込んでいるものも、ゲルマニウム半導体分析器という、現在いちばん低い値まで測れる機械で、原料をつくる段階から出荷するまで検査して、結果を消費者に伝えるということです。

 行政が行う検査よりも検出下限値がたいへん低く、大手メーカーから流通するものよりも、よっぽど信用できると思っています。ここでつくられるような天然の一貫造りの味噌は、免疫力を高め、体と心を元気にします。私は、ここの味噌なら安心だと思いました。免疫力、自然治癒力を高めれば、傷ついた遺伝子を修復する機能は、人間の体に備わっているようです。私たちのお店、みーむでは、太田さんの味噌を扱っていきたいと思っています。

 原発から遠くへ離れたいと思ったこともありました。でも、私は、福島を忘れず、むしろこれからまた、福島に近づいていきたいです。
 福島の人たちは、原発事故が誰のせいとか、あんまり興味ないというか、そんなことを言っている場合ではないかもしれません。

 「放射能を浴びても、笑っている人は大丈夫」と福島の人たちに語り、御用学者と非難された偉い学者さんがいました。私はその人の人柄は存じ上げませんし、もしかして言われている通りに、たいへんな害悪をまき散らしたのかもしれませんが、私は、同じ誹りを受けることを覚悟して言うと、彼の言っていることはある意味正しいかと…。

 というのは、笑いが免疫力を高めることは科学的にも証明されているとのことで、遺伝子が放射線で傷ついても、修復する力がより強く働くと思うからです。

 良いとか悪いとか、正しいとか間違いとか、もうよくわからない世の中になってきたかもしれないと思っています。というか、もう、ぜんぶひっくるめて、発酵しちゃえばいいのかなー?

さかや唄、めでたいなー♪

 寺田本家では、自然の酒つくりに戻ろうと考えたとき、今まで機械でしていた工程を、時代に逆行して手仕事に変えていきました。その中で、昔は全国の酒蔵で歌われていて、数千もあったと言われる労働歌、「さかや唄」も復活させました。
 この日は、自然の菌が入る「きもと造り」の、酒母をかき回す作業で歌われる「もとすり唄」を披露してくださいました。

 気温や湿度によって、作業の長さ、テンポを変えるため、こういった民謡が利用されたということです。そして、お祝いに使われるお酒のために、めでたい、ありがたいという気持ちを込めるのだそうです。

 は、めでたいなー♪愛妻ちえむしと共に、うちの店でも歌ってます。

 寺田本家のお酒は、ほんとうにおいしいです。特に、酵母が生きている発芽玄米酒の「むすひ」はおすすめです。
 寺田本家の麹つくりは、稲麹菌を使います。この菌は、普通の田んぼでは、稲麹病という稲の病気を発生させるもので、農薬を使って殺されるもののようです。自然農の田んぼにはこの菌がいますので、それが利用されます。

 そして、開放タンクには蔵付きの酵母と共に、雑菌も入ると言います。寺田さんは、酒造りでいちばん恐れられている「火落ち菌」と呼ばれるものさえ大事なものだとおっしゃいました。

 善も悪も人間の解釈。
 自然界には存在しません。
 すべてひっくるめて、発酵する世界。
 みんな違って、みんないいんです。

 なんか安心するなあー。

 私も、寺田本家の玄米麹を使って、どぶろくをつくってみました。もう、思いのほか上手にできて、びっくり!
 味噌も納豆もつくってみるつもりです。

自然農の田んぼの、稲麹病で黒くなった稲。この稲麹菌で麹をつくります。


これからのこと

 池袋に「美松」さんという、すばらしい定食屋さんがあります。仏教にも造詣が深いマスターは、とてもバランス感覚に優れたおもしろい人で、放射性物質や化学物質などの悪い影響を抑え、元気になれる食事のあり方を深く追求なさっています。
 近くに行ったら、ぜひ、ここの定食を食べてみてください。寺田本家のお酒も飲めます。こんなお店がどんどん増えていけばいいな、と思います。

 いろんなところで、いろんな人が、いろんなことを考えています。

 過去に起こってしまったことは、もう変えることができません。でも、過去に起こったことに、どういう意味を見つけ、どう判断してどう行動するか。それは変えることができます。

 だから私は、あの震災を、希望に変えたいと思います。

 先日は、野口種苗研究所の野口勲さんの講演会に行きました。雄性不稔によるF1というタネが、またまた心配のタネなのですが、古河でも畑をやれそうなので、野口さんの固定種のタネを買って、自家採取をやります。希望のタネが、一粒万倍。

 詳しくは、野口さんの最新刊『タネが危ない』をお読みください。寺田啓佐さんの『酒蔵の微生物が教えてくれた人間の生き方 発酵道』も素晴らしい本なので、ぜひ、読んでみてくださいね。

 私の中でも、いろんなことが、いろんな人たちとつながって、ゆっくり発酵していきそうな気がしています。
 気持ち良く、楽しく、おいしく発酵したいです。

 みなさん、気が向いたら、私たちのところに遊びに来てくださいね。よかったら、非電化工房の焙煎機でいれたフェアトレードコーヒーか、寺田本家の「むすひ」あるいはせこむし店長特製どぶろくでも飲みながら……。希望のある話をしましょう。

 どうもありがとうございます。

うちでつくったどぶろく。寺田本家の「むすひ」と「醍醐のしずく」のビンに入れてみました。


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自然農をご存知ですか ~2010 東北自然農実践者の会 参加リポート~

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