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ネカアランド計画 vol.1

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高橋幸世 バンクーバー、カナダ
day
2007-01-03
 

 片田舎の夕暮れ時。プラットフォームに、子供連れの家族のシルエットが浮かぶ。子供達は、やけにはしゃいでいる。頭に奇妙なピンクの小さな帽子をくっつけ、首からは見覚えのある顔のペンダントをぶらさげている。お母さんはさっきからやたらとはしゃぐ子供を叱る。お父さんは大きなビニール袋に入ったお土産をぶら下げ、疲れた様子で言葉もない。

 こんな親子の姿を何度見ただろう。そう、この親子はあのネズミの王国、ディズニー・ランドから帰って来たところなのだ。久しぶりの家族一緒の休日、何ヶ月も前から準備したに違いない。新幹線代も、ホテル代も、そして入場料もお土産代も、馬鹿にならなかっただろう。

 そんな夢のような家族の休日だったんだから、喜んであげればいいじゃない?そう心に言い聞かせようとするけれど、田舎の夕暮れにピエロのような少女の姿は妙に悲しい。日頃満たされていない何かを、借り物の夢で埋め合わせようとしている、そんな違和感が漂う。楽しさの裏に隠れた虚脱感。薄っぺらさ。サイズの合わない服のように、どうも何かがしっくりこない。

***


 東京在住の友人が、軽井沢に別荘を探しているという。大学時代の同級生である彼は、小学生の女の子二人の父親。クリエイティブ系の仕事で忙しく、子供と過ごす時間の大切さを最近身に沁みて思うらしい。だからせめて、帰る田舎のない子供達に田舎をプレゼントしたいのだ、と若白髪の彼は呟いた。

***


 田舎の子供は都会にあこがれ、都会の子供は架空の田舎を求めているってちょっと不思議。子供達の夢の国は一体どこにあるのだろうか。

***


 子供の頃、家に祖母がいたので、カギっ子になるのをかろうじてまぬがれた。新興住宅地だったけれど、ご近所さんのつきあいは面倒くさいくらいあった。祖母はいつも「お茶のみ」と称して、ご近所の奥様方や年寄り連中を家に寄せていた。

 御用回りの薬やさんや電気やのお兄さんが3日と置かずやってきて声をかけ、プラスチックのケースを塀の上に乗せておくと配達していってくれる豆腐やさんや、北島三郎の演歌を大音量で流しながらやってくる巡回の八百屋さんが、ご近所さんたちを集めていた。

 立ち話の声があちこちの辻で聞こえ、私はあいさつをしたくなくとも、せざるを得ないような、知り合いの集団の中にいた。暗くなると、近所のおばさんが、そろそろ家に帰りなさいと声を掛けたもんだった。

***


 子供の誘拐事件。過剰な学習塾行き。子供達をめぐるさまざまな問題がよく耳にされる。学校に行けば不審者から身を守らねばならず、学校の行き帰りには誘拐の危険に晒され、家に帰ればカギっ子で行く場所もなく、近所には雑草の生えた原っぱも空き地もないから、思いっきり遊ぶ場所もなく(いかにも悲しい遊具が一つか二つあるような冷たい公園では、遊べって言われても遊びたくもないし)、TVゲームの前のわずかなスペースを与えられた子供達のはかない夢は、お仕着せの刺激的な体験を切り売りしてくれるテーマパーク。これじゃ、子供達がいじけたってしょうがないじゃあないか。

 子供が危ない。いや、その前に親が危ない。本当のもの、美しいもの、豊かなもの、心の奥底に触れるもの、金銭とは関係ないもの、そうした子供時代に(そして全ての大人の中の子供が)触れるべき世界が、日本から少しずつ消えようとしている。というより、それは今でもそこにあるのだけれど、それを見つけることのできる解像度と感性を持った大人も子供も随分と減ってしまった、ということなのかもしれない。

***


 そこで私は、子供たちの笑顔をお金に換算する商業主義が描く子供のパラダイスとは全く別の次元にある、もう一つの子供の夢の世界「ネカアランド」を計画してみることにした。

 童話作家、古田足日の作品『くいしんぼうのロボット』は子供の頃、大好きな本の一つだった。この中で主人公の「ふるたあかね」は、雨傘に書かれた自分の名前を傘の裏側からさかさに読んで「ネカアタルフ」になった瞬間から、日常の中にある非日常のワンダーランドに迷い込んで冒険する。ネカアランドはこの、和製・不思議の国のアリス=ネカアタルフにちなんで命名したものだ。

 すぐ身近にある、隠れたワンダーランド。一体どうやってそれをもう一度見つけることができるのか。ネカアランド計画は全ての子供達と、大人たちの心の中に生きている全ての子供達のための、日本文化再生の、コミュニティー再生の、感性再生の、ちっちゃな試みである。

 これからシリーズで毎回、古き良き時代と、明るい未来と、ご近所と、世界の反対側と、本当にある場所と、バーチュアルな世界と、ローテクとハイテクの、いろんな角度から、当たり前の考えや、奇想天外なアイディアを提案していきたいと思う。読者の皆さんからのご意見やアイディアをどんどん送っていただければとてもありがたい。

 今はまだ影も形もないネカアランドが、そうやって少しずつ姿を現して、近い将来、子供達と大人達の「遊び場」になればいいな、と思っている。(つづく)

* 「ネカアランド計画」に関するご意見、アイディア、ご質問等はコメントからお願いします。


暗闇 -ダイアログ・イン・ザ・ダーク
子供の遊び場=「ハラッパ(原っぱ)」- ネカアランド計画 Vol.2

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