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市民が建てた石鹸工場 (2) ~日本の社会起業家:川崎市民石鹸プラント(ワーカーズコレクティブ『サボン草』)~

leader from from
三沢健直 松本市
day
2004-05-27
 

3.困難

 プラント建設は上手く行ったように見えた。しかし、石鹸製造の指導をしてくれた技術者は建設中に常駐したわけではない。実際に工事に携わった業者も石鹸製造機器の十分な知識を持っていなかった。そのため、設立後2年で危機を迎えることになる。

 不純物を取り除いた植物油に苛性ソーダを混合して石鹸にする『けん化缶』に十分な撹拌能力がないことが分かったのだ。そのために製品の品質にどうしてもバラつきが出てしまう。また、石鹸を粉砕して粉状にする段階で温度が高いと、石鹸が溶けだし粉砕機が詰まってしまう。悪いことに、夏の工場は高温だった。

 けん化缶を交換し、冷房設備を取り付けるのに600万円はかかる。会社に留保などあるわけもなく、借金するしかなかった。正直言って怖気づいた。無謀なことはできないと言って辞めた人もいる。まだ2年しか使っていないけん化缶は、そのまま使ってもまだ何年も使えるはずだった。しかし、だからといって、ろくな石鹸を作らないのではやっている意味がない。石崎さんはそう思い、決断した。

 生活クラブからの増資と三和銀行からの融資を得て修理を行う。幸いにして石鹸の売上は順調だった。ところがその石鹸販売もやがて行き詰ることになる。バブル崩壊のころ、それまで生活クラブが石鹸運動に対して拠出していた活動費が廃止されてしまったのだ。それと同時に石鹸運動は急速に収束していく。頼りにしていた石鹸運動がなくなってしまったことはワーカーにとって大変なショックだった。石鹸の売上も急速に落ち込む。しかし石崎さんはめげなかった。「洗濯がダメなら台所だ」とすぐに方向を切り替えて製品開発を行い、何とか売上を保つことができた。

4.石鹸販売

 設立当時川崎市民石鹸プラントは、マスコミでも大々的に取り上げられ、民間企業からも自前の工場設立を念頭において大勢見学に来た。しかし実際に設立したところはなかった。廃食油リサイクル石鹸は、儲からないのだ。

 廃食油の回収は順調に伸びている。しかし石鹸が売れないのだ。手洗いや台所の使用量は小さく、洗濯用の粉石鹸は普及しない。石鹸には特有の匂いがあること。二槽式では問題ないが、自動洗濯機に粉石けんを入れ過ぎると、石鹸の滓が中に溜まることがあること。それらが消費者に受け入れられない理由ではないか、と石崎さんは考えている。しかし、今後ドラム式の洗濯機が普及すれば、粉石鹸も売れる可能性があると期待している。

 一般的には合成洗剤のほうが汚れを落としやすいという印象がある。しかし合成洗剤には螢光増白剤が含まれ、いわば白く染めているようなものだ。実は石鹸の汚れを落とす力も遜色ないという。今回の取材の際に頂いた粉石けんで実際に洗濯してみたが、確かに良く落ちた。合成洗剤より優れているとさえ感じる。匂いも気にならない。

 ところが合成洗剤は、泡立ちが良く、香料のために香りも良い。広告費にも莫大な費用をかけているために、洗浄力の優れたイメージが浸透している。さらに価格の問題も大きい。廃食油リサイクル石鹸はどうがんばっても通常の石鹸や、ましてや合成洗剤より安くは作れない。石鹸を製造する前に、まず廃食油を精製するのだが、この工程にかかる費用を考えると、海外から新品の油を輸入した方がコストは安く済むのである。

 通常の企業であれば、このような状況で廃食油の回収を依頼されても、原料は足りていると断るところだが、彼女たちは断れば下水か川に捨てられてしまうと思うと放置できず、引き取ってしまうのだという。現在では、不要の廃食油は、安価で業者に転売している。と言っても回収費用を計算すれば、その売上はコストを下回る。川崎市民石鹸プラントは、一部事業者を除き大部分の廃食油を無料で回収しているからだ。

 廃食油を通常の産業廃棄物として捨てる場合には、捨てる側が処理費用として30円/l支払わなければならない。無料で回収している石鹸プラントに対して、まさに行政の支援が必要とされるところだが、支援はない。一般家庭からの回収についてのみ、一般廃棄物としての廃食油回収事業の委託として市から84万円/年が拠出されているが、十分ではない。もしこのリサイクル事業を行政が行ったら大赤字でとても継続できないはずだ。

 しかし彼女たちは、回収率を下げてまで利益を上げることはしない。水を守ることを目的として事業を行っているからだ。「それに」と石崎さんは言う。「大切なのは石鹸や油リサイクルだけではないのです。主婦だった私たちが、自分たちの働く場所をつくり、社会に貢献をしながら自立している。そのことが大切なのです。」

 最近では、かつては生協でしか見かけなかったような環境グッズや健康食品を扱うショップも増え、消費者の意識は変化しつつある。その分、環境に優れた製品間での競争も激化している。少ないパイをめぐるこの競争は容易ではないだろう。川崎市を始め近郊住民が、消費財としての石鹸ではなく、きれいな水を守る廃食油リサイクル全体を支援する目的で、この石鹸を購入するようになればよいのだが。


2004.5.26


市民が建てた石鹸工場 (3) ~日本の社会起業家:川崎市民石鹸プラント(ワーカーズコレクティブ『サボン草』)~
市民が建てた石鹸工場 (1)~日本の社会起業家:川崎市民石鹸プラント(ワーカーズコレクティブ『サボン草』)~

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